第十五話「身曾岐の面」前半
食卓が片づくと、居間の空気は少しだけ変わった。
さっきまでタコスの匂いと笑い声で満ちていた場所に、今はテレビの白い光が落ちている。
Apple TVに接続された画面には、身曾岐神社の境内案内が映っていた。
卓袱台には、湯呑みが六つ。
辛味レベル一、二、三の小皿はもう下げられている。
三樹が破ったトルティーヤの残骸も、二葉に回収された。
四葉は座布団の上に正座し、ノートを開いている。
一樹は卓袱台の前に座り、画面を見ていた。
五樹は二葉の横で、全員分の皿を片づけ終えたところだった。
三樹だけが、まだ少し物足りなさそうな顔をしている。
六樹はリモコンを手に、画面を切り替えた。
「身曾岐神社」
一樹が言う。
「北杜市、小淵沢」
四葉が続けた。
「八ヶ岳の南麓」
「神社そのものは知ってる」
一樹は画面を見る。
「けど、ちゃんと見直すのは初めてだな」
六樹が頷いた。
「本殿、火祥殿、水祥殿、能楽殿。火と水と舞がある」
「火と水」
二葉が湯呑みを置きながら呟いた。
六樹が画面を切り替える。
「夏越の大祓は、水の大祓。葦船を整えて、穢れを託した形代を乗せて、水祥殿の御神水で祓い清める」
三樹が眉を寄せる。
「穢れを船に乗せるのか」
「そう」
「流す?」
「祓い清める。水に託す」
二葉は黙った。
水。
穢れ。
流す。
届かなかった水。
竜地の大溜井。
黒。
六樹は次の画面へ進める。
「年越の大祓は、火と水の御力を拝して斎行される。形代に罪穢れを託して、火で浄化する」
五樹が皿を置く手を止めた。
「水で清めて、火で浄化?」
「うん」
「二葉の破祓と、五樹の素戔鳴斬みたい」
四葉が言った。
二葉と五樹が同時に四葉を見る。
「何が?」
「二葉は壊してでも清める。五樹は断つ。火と水ほどきれいに分かれてないけど、近い」
五樹は少しだけ笑った。
「俺、火?」
「五樹は剣」
「火じゃないんだ」
「チャラい火」
「何それ」
二葉は湯呑みに口をつける。
「私は水?」
四葉は少し考えた。
「水というより、流れないものを壊す水」
「物騒」
「事実」
一樹が口を挟む。
「二葉に“事実”って言うの、六樹みたいだな」
「感染した」
六樹が淡々と言う。
「してない」
「してる」
「してない」
三樹が画面を見ながら言った。
「で、能舞台って何が気になるんだ?」
六樹は画面を切り替えた。
神池に浮かぶように建つ能楽殿の写真が映る。
部屋の空気が、少しだけ静かになった。
水面。
舞台。
橋懸り。
鏡の間。
神池に映る建物。
一樹が、目を細めた。
「……きれいだな」
「日本随一の能舞台」
六樹が言う。
「舞台、橋懸り、鏡の間、貴人席。屋外に、本来の能舞台の姿で建てられてる」
四葉が画面を見たまま言った。
「神楽殿の代わりに、能楽殿」
「そこだ」
六樹が言う。
一樹が六樹を見る。
「そこ?」
「神社の中に、神楽殿ではなく能楽殿が据えられている。能は、見せるものでもあるけど、ここでは神に奉るものでもある」
四葉が小さく頷いた。
「例祭宵宮の八ヶ岳薪能」
「能を神様に奉る」
六樹は、画面の文字を一つずつ確認するように言った。
「舞うことで、戻す」
部屋が静かになった。
一樹はその言葉を繰り返す。
「舞うことで、戻す」
「戻す?」
三樹が聞く。
六樹は画面を見ながら言った。
「記録の中に、“声が戻る”という言葉がある」
二葉が顔を上げた。
「声?」
「うん」
六樹はノートを開く。
「古い資料の写し。公式の情報じゃない。森口家の記録の中に挟まってた。身曾岐神社の能楽殿について調べた誰かの覚書」
一樹の顔が変わった。
「誰の」
「筆跡は不明。じいちゃんの字じゃない。たぶん、もっと前」
四葉がすぐに言う。
「初代以降?」
「可能性はある」
一樹が身を乗り出す。
「読んでくれ」
六樹は、ノートに写した文を見た。
「“水に映る舞台にて、面を掛ける時、声は戻る。声なきものは面を借り、流れなきものは水に映る”」
誰も動かなかった。
二葉の湯呑みから、湯気が細く上がる。
五樹が、静かに息を吐いた。
「……面を借りる」
四葉が呟く。
「声なきもの」
一樹は目を伏せる。
「流れなきものは水に映る」
三樹が腕を組んだ。
「つまり?」
六樹は即答しなかった。
四葉が代わりに言う。
「面は、顔を隠す道具じゃない。別のものを表に出すためのもの」
「別のもの?」
「人ではないもの。過去。神。怨み。記憶。声」
三樹は少しだけ顔をしかめた。
「面、怖いな」
「怖いよ」
四葉は普通に言った。
「能面は、怖い」
「四葉が言うと怖さ増す」
「褒めてる?」
「たぶん」
五樹が二葉を見た。
「二葉、大丈夫?」
「何が」
「顔」
「また顔?」
「うん」
二葉は少しだけ眉を寄せた。
「……声が戻る、っていうのが引っかかる」
「水の音?」
一樹が聞く。
「それもある。でも、もっと」
二葉は言葉を探す。
「水の音がしてた場所って、声がない感じがした」
三樹が頷いた。
「分かる」
一樹が三樹を見る。
「分かるのか」
「なんか、音はあるのに、誰も喋ってない感じ」
六樹が視線を上げる。
「重要」
「俺、今重要なこと言った?」
「言った」
三樹は少し嬉しそうになった。
「だろ」
「でも肉の話ではない」
「分かってる」
「本当に?」
「分かってる」
一樹がすぐに言う。
「三樹の分かったは持続しない」
「今それ関係ある?」
「ある」
五樹が小さく笑った。
けれど、二葉は笑わなかった。
「声がない場所に、面を掛けると声が戻る」
「でも」
五樹が言う。
「戻しちゃいけない声もあるんじゃない?」
空気が、また変わった。
六樹が五樹を見る。
「その通り」
五樹は肩をすくめた。
「だよね」
一樹は顔をしかめる。
「声を戻すってことは、何かを聞けるようになる。でも、何を聞くか分からない」
「黒の声だったら?」
三樹が言う。
二葉が静かに答えた。
「危ない」
「だよな」
四葉がノートを開いた。
「面は、選ばないといけない」
「面を?」
「うん。誰の面か。何の面か。どの声を通すか」
六樹が頷く。
「だから、身曾岐の面」
一樹が言った。
「記録に、面そのものの記述はあるのか」
六樹は画面を切り替える。
森口家の古い写真。
色褪せた紙。
文字の端が滲んでいる。
「ある」
画面に、短い文字列が映る。
——身曾岐の面、開けるな。
——水なき時、面は乾く。
——乾いた面は、声を食う。
三樹が露骨に嫌な顔をした。
「怖っ」
五樹も笑わなかった。
「声を食う、ね」
二葉は、湯呑みを置いた。
「その面、どこにあるの」
六樹は一拍置いた。
「森口家」
全員が止まった。
一樹の声が低くなる。
「……うちに?」
「たぶん」
「たぶんって何だ」
「記録上、“奥の蔵、朱の箱”とある」
五樹が一樹を見る。
「奥の蔵って」
「じいちゃんの管理してるところだな」
二葉が立ち上がりかけた。
五樹が先に声を出す。
「二葉」
「何」
「今すぐ行く顔してる」
「行くでしょ」
「行くけど、みんなで」
「分かってる」
「二葉の分かってるは、三樹よりは信用してるけど、こういう時は怪しい」
「五樹」
「はいはい。でも本当」
一樹が立ち上がった。
「じいちゃんに確認する」
「私も行く」
二葉が言う。
「俺も」
三樹が続く。
「行く」
五樹も立ち上がる。
四葉はノートを持った。
「行く」
六樹はスマホを手に取る。
「記録する」
一樹は全員を見た。
「……全員で行く気か」
二葉が首を傾げる。
「だめ?」
「だめじゃないが」
五樹が笑う。
「一樹、また立場?」
「違う」
「じゃあ何?」
一樹は少しだけ息を吐いた。
「面って言葉が出た時点で、全員で行くのは危ない気がする」
四葉が頷いた。
「正しい」
「正しいなら止まれ」
「でも、全員の方がいい」
「なぜ」
四葉は、一人ずつ見た。
「二葉は異常を破れる。五樹は断てる。三樹は先に気づく。六樹は記録して留める。一樹は判断する。私は関係を見る」
一樹は黙った。
五樹が肩をすくめる。
「ほら、四葉が正論」
「お前が言うと腹立つな」
「なんで」
「なんとなく」
二葉が言った。
「一樹」
「何だ」
「行こう」
二葉の声は短かった。
命令ではない。
けれど、その一言で場が動く。
一樹は額を押さえた。
「……だから俺の威厳が」
「何?」
「何でもない」
三樹が小さく言う。
「二葉、総大将」
「三樹」
「はい」
一樹は諦めたように息を吐いた。
「分かった。全員で行く。ただし、勝手に触るな」
「誰に言ってるの」
二葉が聞く。
「主に三樹」
「俺かよ」
「あと二葉」
「私?」
「お前もだ」
五樹が笑った。
「一樹、分かってるじゃん」
「お前も触るな」
「俺は触らないよ。二葉が触りそうなら止める」
「それは信じる」
「信じられた」
「嬉しそうにするな」
森口家の奥には、古い蔵がある。
普段使う納屋とは違う。
祖父の樹蔵が管理している、家の奥の奥。
そこには、古い祭具、古文書、使わなくなった神具、名前だけ残っている箱が眠っている。
夜の廊下を進む。
外は静かだった。
雨は降っていない。
それなのに、どこかで水の音がした。
二葉が足を止める。
五樹も止まった。
「聞こえた?」
「聞こえた」
三樹が前を向く。
「奥だ」
六樹がスマホを構える。
「録音開始」
四葉が小さく言う。
「水がないのに、水の音」
一樹は、蔵の前で足を止めた。
鍵は掛かっていなかった。
いや。
鍵は、開いていた。
一樹の表情が変わる。
「じいちゃん」
呼ぶ前に、蔵の中から声がした。
「遅かったな」
樹蔵が、灯りの下に座っていた。
その前に、朱い箱がある。
二葉が息を呑む。
箱は古かった。
朱は剥げ、角は黒ずみ、ところどころに水の染みのような跡がある。
だが、濡れてはいない。
乾いている。
乾いているのに、水の匂いがした。
一樹が一歩前へ出る。
「じいちゃん」
樹蔵は箱に手を置いたまま、六つ子を見た。
「開けに来たか」
一樹は答えない。
代わりに、六樹が言った。
「記録を見つけた」
「だろうな」
「知ってた?」
「知っとった」
三樹が顔をしかめる。
「知ってたなら言えよ」
「言ったら、お前らは来たか」
三樹は黙った。
二葉が答える。
「来る」
「そうだろう」
樹蔵は少し笑った。
「だから、言わんかった」
一樹が低く言う。
「性格悪いな」
「褒め言葉だ」
「褒めてない」
樹蔵は箱を見た。
「これは、身曾岐の面と呼ばれとる」
四葉の目が動く。
「呼ばれてる?」
「正式な名ではない。森口家が勝手にそう呼んできただけだ」
「何の面」
樹蔵は、しばらく黙った。
「声を戻すための面」
六樹が一歩近づく。
「声なきものは面を借りる」
樹蔵の目が細くなる。
「読んだか」
「読んだ」
「なら、その続きも読んだな」
六樹が頷く。
「乾いた面は、声を食う」
三樹が腕を組む。
「つまり、危ないやつ」
「そうだ」
二葉が箱を見る。
「今、乾いてる」
樹蔵は二葉を見た。
「分かるか」
「分かる」
「なぜ」
「音が、乾いてる」
誰も笑わなかった。
二葉は真顔だった。
五樹が横で静かに息を吐く。
「二葉、それ」
「うん」
「嫌な感じ?」
「嫌」
五樹の目が細くなる。
「じゃあ、触らない」
「触らない」
「本当に?」
「触らない」
「約束」
二葉は五樹を見た。
五樹は笑っていなかった。
二葉は少しだけ目を伏せる。
「……約束」
一樹が樹蔵を見る。
「開ける必要はあるのか」
樹蔵は答えた。
「今はない」
「じゃあ、なぜここにいる」
「お前たちが来るからだ」
「答えになってない」
「なっとる」
樹蔵はゆっくり立ち上がる。
「この面は、水に映して初めて声を返す。水なきところで開ければ、声を食う。声を食われた者は、自分の声を失う」
三樹が喉を押さえた。
「やばすぎるだろ」
四葉が言う。
「声は、言霊と関係する」
六樹の顔が、少しだけ強張った。
樹蔵が六樹を見る。
「お前は近づきすぎるな」
六樹は黙った。
二葉がすぐに六樹の前へ出る。
「六樹は後ろ」
六樹は少しだけ眉を寄せる。
「二葉」
「後ろ」
その声には、いつもの世話焼きではないものがあった。
元・影の特攻隊長の声。
六樹は一瞬だけ黙り、やがて短く言った。
「分かった」
五樹が小さく言う。
「二葉、総大将出てる」
「うるさい」
「でも助かる」
二葉は何も言わなかった。
一樹は、箱から目を離さない。
「じいちゃん。この面は、身曾岐神社と関係があるのか」
樹蔵は答えた。
「直接のものではない」
「直接ではない?」
「身曾岐の能楽殿を見て、先代の誰かが気づいた。水に映る舞台。鏡の間。面。神に奉る舞。火と水の祓い。そこに、森口家の古い役目と同じ形を見た」
四葉が小さく息を吸った。
「似た形を見る」
樹蔵が四葉を見る。
「そうだ。似た形から、失われた形を思い出す」
一樹の中で、何かがつながり始めた。
水に映る舞台。
面。
声。
祓い。
火と水。
夏越の水。
年越の火。
能を神に奉る舞台。
身曾岐神社は、森口家の起源ではない。
けれど、森口家が失いかけているものを思い出させる形を持っている。
「だから、身曾岐の面」
一樹が言った。
樹蔵は頷いた。
「本当の名は、まだ分からん」
六樹が小さく言う。
「名が分からないものは、危ない」
「そうだ」
「名をつければ、留められる?」
樹蔵は六樹を見た。
「簡単に名をつけるな」
六樹は黙った。
「名は、縛る。だが、間違った名は歪める」
四葉がノートを握る。
「だから、関係を見る必要がある」
「そうだ」
樹蔵は四葉に目を向けた。
「お前は、よく見る」
四葉は少しだけ瞬きをした。
「褒めてる?」
「褒めとる」
「ならいい」
三樹が少しだけ身を乗り出す。
「で、俺は?」
樹蔵は三樹を見る。
「お前は、危ない方が分かる」
「おお」
「だから、勝手に行くな」
「褒めたあとに怒るな」
「事実だ」
「今日、事実で殴られすぎだろ」
五樹が笑いそうになって、やめた。
樹蔵の目が、五樹へ向く。
「五樹」
「はい」
「お前は、二葉を見ておけ」
五樹は、いつものように軽口を返さなかった。
「分かってる」
「見ておけ、では足りん。止めろ」
二葉が反応する。
「おじいちゃん」
「お前は、自分を止めるのが下手だ」
蔵の中が静かになる。
二葉は何も言えなかった。
樹蔵は続ける。
「破れる力は強い。だが、破るものを間違えれば、戻る道まで壊す」
二葉の手が、少しだけ握られる。
五樹がその横に立つ。
近すぎず、離れすぎず。
いつもの位置。
「だから五樹がいる」
樹蔵が言った。
五樹は短く笑った。
「責任重大じゃん」
「今さらだ」
「だよね」
二葉が五樹を見る。
五樹は、軽く肩をすくめた。
「二葉、俺の言うことは聞いてね」
「内容による」
「そこは聞くって言って」
「内容による」
「頑固」
「お互い様」
一樹が一歩前へ出た。
「俺は?」
樹蔵は一樹を見た。
「お前は、決めろ」
一樹は息を止める。
「何を」
「いつ開けるか。どこで開けるか。誰の声を聞くか。聞いた声を、どこへ戻すか」
重い言葉だった。
三樹が黙る。
二葉も黙る。
五樹も、笑わない。
六樹は画面を閉じた。
四葉はノートを抱えたまま、一樹を見る。
一樹は、朱の箱を見た。
箱は静かだった。
だが、静かすぎた。
まるで、中に何かがいるのではなく。
中に、何かがない。
空っぽのものが、声を待っているようだった。
「……今は、開けない」
一樹が言った。
樹蔵の目が、わずかに細くなる。
「理由は」
「水がない」
一樹は答えた。
「水に映して初めて声を返すなら、ここで開けるべきじゃない」
「他には」
「六樹が近すぎる。二葉も反応してる。三樹も嫌がってる。今は、こっちの準備が整ってない」
樹蔵は黙って聞いている。
一樹は続けた。
「それに、何の声を聞くか決めてない」
四葉が、小さく頷いた。
一樹は息を吐く。
「だから今は、封を確認して、戻す」
樹蔵は、しばらく一樹を見ていた。
やがて、低く笑う。
「悪くない」
一樹の肩から、少しだけ力が抜けた。
「悪くないだけか」
「上出来と言うには早い」
「厳しいな」
「次期神主だからな」
一樹は苦笑する。
「便利に使うな、その言葉」
樹蔵は箱に布をかけた。
「明日、あらためて封を直す。今夜は触るな」
六樹が頷く。
「記録する」
「記録はよい。だが、名は書くな」
「なぜ」
「まだ名が定まっておらん」
六樹は少しだけ考えた。
「仮称も?」
「仮称はよい。だが、呼ぶな」
「分かった」
三樹が小声で言う。
「呼んだら来る系?」
四葉が淡々と答えた。
「たぶん」
「怖っ」
二葉は箱を見つめていた。
五樹が、その視線を遮るように少しだけ前へ出る。
「二葉」
「分かってる」
「見すぎ」
「見てない」
「見てる顔」
「また顔」
「うん」
二葉は少しだけ目を伏せた。
「……嫌な音がする」
「どんな」
「乾いた水の音」
三樹が顔をしかめる。
「それ、さっきから嫌すぎる」
六樹が小さく言う。
「乾いた水」
四葉がノートに書こうとして、止めた。
樹蔵が見ていたからだ。
「書かない」
「賢い」
四葉は少しだけ満足そうにした。
蔵を出る時、一樹は振り返った。
朱の箱は、布の下で静かに沈んでいた。
水の音はもう聞こえない。
だが、完全に消えたわけではない。
遠くで、まだ鳴っている。
家の奥ではなく。
もっと別の場所で。




