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森口家の六つ子は、神様の後始末係です —龍神さまからのご指名—  作者: 織村蜜柑


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15/32

第十四話「六つ子のタコパ」

深緑のラングラーは、山道を下りきったあと、なぜかスーパーの駐車場に入った。

助手席の二葉が、少しだけ眉を寄せる。

「五樹」

「はい」

「家、こっちじゃないよね」

「うん」

「なんでスーパー?」

五樹は、いつもの軽い笑顔でハンドルを切った。

「二葉、今日ちゃんと食べてないでしょ」

「食べた」

「朝のおにぎりと、途中の飲み物だけ」

「十分じゃない?」

「不十分」

二葉はため息をついた。

「五樹、お腹空いただけでしょ」

「それもある」

「正直」

「あと、帰ったら絶対みんな待ってる」

「……それはそう」

「で、三樹が『腹減った』って言う」

「言うね」

「一樹がため息つく」

「つくね」

「六樹は豆と菊の確認をしながら紅茶を淹れる」

「たぶん」

「四葉はみどり豆食べながら、今日の黒い糸の話を始める」

「ありえる」

「だから、食材買って帰ろう」

二葉は、数秒黙った。

「確かに、買っていた方がいいかも」


「今日、何食べたい?」

スーパーの入口で、五樹が言った。

二葉は買い物かごを取ろうとして、先に五樹がカートを引き出すのを見た。

「それ、私が押すつもりだったんだけど」

「俺が押す」

「なんで」

「二葉が商品見るでしょ」

「見るけど」

「じゃあ、俺が押す」

あまりに自然に言われて、二葉は少しだけ目を細めた。

「……まあ、いいけど」

五樹は笑った。

「で、今日何食べたい?」

「それ、私が聞く側じゃない?」

「二葉のご飯食べたい側だから、俺が希望を出す」

「言い方」


二葉は野菜売り場の方へ歩き出す。

五樹はその半歩後ろでカートを押した。近すぎず、離れすぎず。二葉が足を止めれば止まり、横にずれれば自然に通路を空ける。

本人たちにとっては、いつもの距離だった。

「で?」

二葉が言う。

「何食べたいの」

「タコス」

「タコス?」

「うん」

二葉は足を止めた。

トマトの前だった。

「トルティーヤから作らないとならないんだけど」

「俺、手伝うから。ね」

五樹は、そう言って少しだけ顔を傾けた。

軽い。

いつもの軽さ。

けれど、二葉は知っている。

この男は、こういう時だけは本当に手伝う。

荷物も持つ。野菜も洗う。玉ねぎも切る。肉も炒める。片付けもする。邪魔そうに見えて、必要なところには必ず手が伸びる。


二葉は小さく息を吐いた。

「しょうがないなぁ」

「やった」

「その代わり、ちゃんと手伝ってよ」

「もちろん」

「玉ねぎで泣いても知らないから」

「二葉が慰めてくれるなら泣く」

「泣くな」

五樹は笑いながら、トマトを手に取った。

「これ?」

「違う。こっち。皮が張ってるやつ」

「はいはい」

「アボカドもいる」

「熟れてるやつ?」

「今日使うからね」

五樹はアボカドを手に取り、軽く感触を確かめた。

「これは?」

「いい」

「こっちは?」

「ちょっと硬い」

「じゃあ、こっち」

二葉が言う前に、五樹は選んだものをカートに入れる。

二葉は何も言わなかった。

それが普通だった。


「肉は?」

「ステーキ肉、鶏むね肉も」

「三樹がいるから?」

「いるから」

「三樹、タコスって言ったら肉だけ詰めそう」

「やるね」

「やるよね」

二人は同時にため息をついた。


通路の向こうで、小さな子ども連れの女性がこちらを見ていた。二葉と五樹を見て、少し目を丸くしている。

五樹は気づいているのかいないのか、カートを押したまま二葉の横に並んだ。

「二葉、チーズいる?」

「いる。あとレタス、パクチー、サワークリーム」

「辛いソースは?」

「一樹と三樹用。六樹は分類し始めるから、辛さ違いで何種類か買っとく」

「六樹、絶対レベル分けする」

「するね」

「四葉は?」

「食べやすければ食べる。こぼしたら怒る」

「怒るんだ」

「自分に」

「四葉らしい」


会計が終わると、五樹は袋を二つとも持った。

二葉が手を伸ばす。

「一つ持つ」

「いい」

「重いでしょ」

「二葉はトルティーヤの配合考えてて」

「もう考えてる」

「じゃあ、帰ったらすぐ作れる」

二葉は五樹を見た。

五樹は、何も特別なことをしている顔をしていなかった。

本当に、ただの買い物帰り。

それが少しおかしくて、二葉は小さく笑った。

「何」

「別に」

「二葉、今笑った」

「笑ってない」

「笑った」

「しつこい」

五樹は楽しそうに笑った。

「はいはい」


森口家に戻ると、三樹が玄関まで来ていた。

「肉の匂いがする」

「まだ袋の中なんだけど」

二葉が言う。

三樹は真剣な顔で、五樹の持つ袋を見た。

「肉は分かる」

「犬か」

五樹が言う。

「犬じゃねえ」

「豆と菊に謝って」

「なんでだよ」

奥から六樹の声がした。

「豆と菊の嗅覚と三樹を同列にしないで」

「六樹、お前どっちの味方だ」

「豆と菊」

「即答すんな」

二葉は靴を脱ぎながら言った。

「三樹、まだ食べられないからね」

「味見」

「まだ」

「肉だろ」

「肉だけど、まだ」

「焼けば食える」

「タコスにするの」

三樹は少し考えた。

「じゃあ、肉多めで」

「最初からそのつもり」

「さすが二葉」

「褒めても味見はまだ」

三樹は分かりやすく肩を落とした。


台所に立つと、五樹は何も言われる前に手を洗い、買ってきたものを出し始めた。

二葉はボウルを取り出す。

「五樹」

「はい」

五樹が棚から小麦粉を取って渡す。

二葉は受け取りながら、目だけで五樹を見た。

「まだ言ってない」

「顔に書いてあった」

「書いてない」

「二葉は、今、小麦粉って顔してた」

「どんな顔」

「トルティーヤ作る顔」

「意味分かんない」

それでも、二葉は小麦粉を量り始める。

五樹は横でまな板を出し、野菜を洗う。

レタス。トマト。玉ねぎ。アボカド。

二葉が生地をまとめる横で、五樹は包丁を握った。

「玉ねぎ、細かめ?」

「細かめ」

「トマトは?」

「水気出すぎないように」

「了解」

会話は短い。

けれど、滞らない。

二葉が手を伸ばす前に、五樹が布巾を置く。

五樹がフライパンを出す前に、二葉がコンロを空ける。

二葉がボウルを横にずらすと、五樹がそこに皿を置く。

「お前ら、距離感おかしくね?」

三樹が台所の入口で言った。

二葉と五樹は同時に振り返った。

「何が?」

「何が?」

声が重なった。

三樹は顔をしかめた。

「それだよ」

「どれ」

二葉が首を傾げる。

五樹は玉ねぎを切りながら言った。

「三樹、邪魔するなら肉減らすよ」

「それは困る」

「じゃあ黙って座ってて」

「俺、手伝う」

「つまみ食いするからだめ」

「信用がない」

「実績がある」

三樹は何も言えなくなった。


そこへ四葉が入ってきた。

片手に、みどり豆。

「タコス?」

「うん」

二葉が答える。

「片手で食べられる。合理的」

「こぼすでしょ」

「こぼさない技術が必要」

「食事に技術求めないで」

四葉はぽり、とみどり豆を噛もうとして、二葉に見られた。

「四葉」

「今は台所」

「そう」

四葉は静かに袋を閉じた。

「あとで食べる」

「偉い」

「私、二葉好き」

「はいはい」

五樹が横から言った。

「四葉、二葉への好きアピールは料理終わってからで」

「五樹に言われたくない」

「俺はアピールじゃなくて通常運転」

「それが問題」

「何が?」

「自覚なし」

五樹は笑った。

「自覚って何の?」

四葉は二葉を見た。

二葉も不思議そうな顔をしている。

四葉は少しだけ目を細めた。

「……この二人、だめだ」

「四葉?」

「何でもない」


六樹が台所に入ってきたのは、肉を炒め始めた頃だった。

「辛味は?」

「買ってある」

二葉が言う。

「種類は?」

「三種類」

「足りない」

「タコスで何段階作る気?」

六樹はソースの瓶を見た。

「辛くない、少し辛い、辛い。三段階だと、三樹が辛いを雑に使う」

「俺、辛いのいける」

三樹が言う。

六樹は振り向かない。

「信頼性が低い」

「なんでだよ」

「前に辛いと言いながら水を一リットル飲んだ」

「あれは辛かった」

「だから信頼性が低い」


一樹が遅れて顔を出した。

「何してる」

「タコパ」

五樹が言う。

「タコパ?」

「タコスパーティー」

「たこ焼きじゃなくて?」

「タコス」

一樹は台所を見回した。

二葉が生地を分け、五樹が具材を整え、三樹が肉を狙い、四葉がみどり豆を我慢し、六樹がソースを分類している。

一樹は少し黙った。

「俺、何すればいい?」

二葉は即答した。

「皿出して」

「俺、皿係?」

「大事」

「雑に重要扱いするな」

五樹が笑う。

「一樹、森口家公式お父さんなんだから、皿くらい出してよ」

「公式お父さんって何だ」

「自称?」

「自称してない」

「じゃあ、非公式?」

「もっと嫌だ」

二葉は生地を伸ばしながら言った。

「一樹、そんなこと気にしてたの?」

「そんなことって言うな」

「必要な人が必要なことすればいいじゃん」

「それはそうだけどな」

「じゃあ、皿」

「……分かったよ」

一樹は棚から皿を出した。

三樹がぼそっと言う。

「一樹、皿似合うな」

「どういう意味だ」

「安定感」

「皿で安定感出したくない」

四葉がうなずいた。

「でも一樹が皿を出すと、ちゃんと始まる感じがする」

一樹は少しだけ止まった。

「……それは褒めてるのか?」

「褒めてる」

二葉が言った。

「一樹がいないと、こういうの始まらないし」

一樹は二葉を見た。

二葉は、特に何でもないように生地を焼いている。

五樹が横で、焼けたトルティーヤを皿に重ねていく。

「ほら、一樹。よかったじゃん」

「お前に言われると腹立つ」

「なんで」

「なんとなく」

「理不尽」

「お前が言うな」


トルティーヤが焼ける匂いがした。

肉の香ばしい匂い。

刻んだトマトの水気。

アボカドの柔らかい緑。

レタスの音。

六樹は小皿にソースを分け、付箋まで貼り始めた。

「辛味レベル一、二、三」

「研究発表?」

五樹が言う。

「安全管理」

「タコスの?」

「三樹がいる」

「納得」

「納得すんな」

三樹は肉の皿を見つめたまま言った。

「もういい?」

「まだ」

二葉が言う。

「あと少し」

「あと少しが長い」

「三樹」

一樹の声が低くなる。

「待て」

「犬じゃねえ」

「豆と菊の方が待てる」

六樹が言う。

「それはちょっと傷つく」

「事実」

「六樹、今日厳しくね?」

「肉が絡む三樹には厳しくする」

「なんでだよ」

「必要だから」

五樹は笑いながら、二葉に焼けたトルティーヤを渡した。

「二葉、これいい感じ」

「うん。上手い」

「褒められた」

「トルティーヤがね」

「俺も含めて」

「はいはい」

そのやり取りを見て、一樹が少し眉を寄せる。

「やっぱりお前ら、距離感おかしいぞ」

二葉は顔を上げた。

「一樹まで何?」

「いや、今のはおかしいだろ」

「普通でしょ」

五樹も平然としている。

「普通だよね」

「普通」

二葉がうなずく。

一樹は額を押さえた。

「……俺の白髪、増える気がする」

「家系で禿げてないから大丈夫」

二葉が言う。

「白髪の話だ」

「染めれば?」

「そういうことじゃない」

四葉がぽつりと言った。

「一樹、威厳より髪を気にしてる」

「四葉」

「事実」

六樹が続ける。

「記録上、最近よく言ってる」

「記録するな」


ようやく食卓に皿が並んだ。

焼きたてのトルティーヤ。

炒めたステーキ肉、鶏むね肉。

千切りレタス。

ピコ・デ・ガヨ。

ワカモレ。

チーズ。

サワークリーム。

辛味レベル一から三。

六樹がさらに小さな紙に説明を書いている。

三樹はもう待てない顔をしていた。

「食っていい?」

二葉が座る。

「いいよ」

その一言で、三樹が肉を取った。

「三樹、入れすぎ」

二葉が言う。

「大丈夫」

「巻けないでしょ」

「押せばいける」

「いけない」

五樹が横からトルティーヤを一枚取った。

「三樹、それ破れる」

「破れない」

次の瞬間、破れた。

肉が皿に落ちる。

沈黙。

四葉が静かに言う。

「予測通り」

六樹もうなずく。

「構造的限界」

三樹は落ちた肉を見た。

「……皿の上だからセーフ」

「そういう問題じゃない」

一樹がため息をつく。

二葉は手を伸ばし、三樹の皿に新しいトルティーヤを置いた。

「肉、少し減らして。レタスを先に敷く」

「なんで」

「水分を受けるから」

「なるほど」

「分かった?」

「分かった」

一樹がすぐに言う。

「三樹の分かったは持続しないぞ」

「ひどい」

「事実」

六樹が言う。

「お前ら今日、事実で殴りすぎだろ」


五樹は二葉の分のタコスを作っていた。

辛くないソース。

レタス、ピコ・デ・ガヨ多め。

ワカモレ少し多め。

チーズは控えめ。

二葉がそれに気づく。

「五樹」

「ん?」

「自分の作りなよ」

「作ってる」

「それ、私のでしょ」

「うん」

「自分のは?」

「あと」

「先に食べればいいのに」

「二葉、今手が空いてないじゃん」

「空いてる」

「空いてない顔してる」

「また顔?」

「うん」

二葉は少しだけ呆れた顔をした。

でも、受け取った。

「ありがと」

「どういたしまして」

三樹がそれを見て言った。

「だから距離感」

五樹がにこっと笑う。

「三樹も作ってほしい?」

「いや、俺は自分でできる」

「破ったのに?」

「次はいける」

「じゃあ頑張って」

三樹は悔しそうに肉を減らした。

四葉は自分のタコスを慎重に作っている。

「こぼさない技術」

「まだ言ってる」

二葉が笑う。

「重要」

四葉は真剣だった。

六樹は辛味レベル二を少しだけ試し、無言で水を飲んだ。

五樹が見逃さない。

「六樹、辛かった?」

「確認」

「辛かったんだ」

「確認」

「はいはい」

一樹はレベル一を使っていた。

三樹がそれを見て言う。

「一樹、辛いのいかないのか」

「明日、じいちゃんと朝から用がある」

「関係ある?」

「腹を壊したくない」

「現実的」

「長男だからな」

五樹が小さく笑った。

「出た、長男」

「何だ」

「いや、皿係の長男」

「お前、あとで覚えてろ」

二葉はタコスを一口食べた。

少しだけ目を細める。

「うん。おいしい」

その一言で、五樹が分かりやすく嬉しそうな顔をした。

「でしょ」

「五樹、野菜の切り方よかった」

「褒められた」

「そこだけね」

「十分」

三樹が口いっぱいに頬張りながら言った。

「肉うまい」

「口の中に入れたまま喋らない」

二葉が即座に言う。

三樹は黙ってうなずいた。

一樹が苦笑する。

「二葉がいると、食卓が締まるな」

「締めてるつもりないけど」

「それが問題なんだよ」

「また立場?」

「いや、もういい」

五樹が横から言う。

「一樹、あきらめた?」

「あきらめたわけじゃない」

「じゃあ受け入れた?」

「それも違う」

四葉がタコスをこぼさず食べきり、静かに言った。

「森口家は、二葉が回して、五樹が補佐して、一樹が現実に戻す」

一樹は黙った。

二葉も少しだけ止まった。

五樹は笑っている。

六樹が淡々と補足した。

「三樹が本能で動いて、四葉が観察して、僕が記録する」

三樹がうなずく。

「俺、動く係」

「食べる係でもある」

二葉が言う。

「それも大事」

「大事か?」

「三樹が食べてると、家って感じする」

三樹は一瞬、きょとんとした。

それから笑った。

「じゃあ、もっと食う」

「ほどほどに」

「そこは止めるのかよ」


一樹は食卓を見回した。

二葉がいて、五樹がその横にいる。

三樹が肉を足し、四葉がこぼさない角度を研究し、六樹が辛味レベルの記録を直している。

騒がしい。

まとまっているとは言いにくい。

けれど、不思議と回っている。

一樹は、小さく息を吐いた。

「……まあ、いいか」

五樹がすぐに拾う。

「一樹、悟った?」

「うるさい」

「悟りの皿係」

「その呼び方やめろ」

二葉が笑った。

その笑いにつられて、食卓の空気が少し緩む。


こういう時間は、長くは続かない。

森口家にとって、何も起きない夜は貴重だった。

だからこそ、誰も急がなかった。

食べて、笑って、突っ込んで、また食べる。

それだけの時間。

けれど、その途中で、六樹がふと箸を置いた。

六樹は、具材が落ちないように箸で中身の位置を微調整していた。

タコスなのに箸を使っていることには、誰も突っ込まなかった。


六樹はスマホの画面を見ていた。

表情が、少しだけ変わっている。

一樹が先に気づいた。

「六樹?」

六樹は画面から目を離さない。

「身曾岐神社について、公開資料を見てた」

食卓の音が、少しだけ止まった。

三樹だけが肉を追加しようとして、二葉に手首を押さえられる。

「今は待って」

「……はい」

六樹は続けた。

「能舞台に関する記述の中に、気になるものがある」

四葉の目が動く。

「古い?」

「古い」

一樹の顔が、外向きのものに変わっていく。

次期神主の顔。

けれど二葉は、その前に六樹を見た。

「今、話す?」

六樹は一度だけ瞬きをした。

それから、食卓を見た。

タコス。

皿。

辛味レベルの小皿。

三樹の破れたトルティーヤ。

四葉のきれいに畳まれた包み。

五樹が二葉の横に置いた、水の入ったグラス。

六樹は少しだけ息を吐いた。

「食べてからでいい」

三樹がぱっと顔を上げた。

「いいのか?」

「三樹は、あと一個だけ」

「なんで俺だけ制限」

「肉の残量」

「現実的すぎる」

五樹が笑った。

「じゃあ、食べようよ。話はそのあと」

二葉もうなずく。

「そうだね」

一樹は六樹を見た。

「大丈夫か」

六樹は短く答える。

「大丈夫」

二葉は、その言い方を聞いて、少しだけ目を細めた。

でも、今は何も言わない。

代わりに、六樹の皿に辛くないソースのタコスを一つ置いた。

「これ、六樹用」

六樹は一瞬だけ止まった。

「……ありがとう」

「うん」

五樹が横でにやっと笑う。

「二葉、六樹にも甘い」

「五樹、うるさい」

「はいはい」

食卓に、また音が戻る。

笑い声。

皿の音。

三樹の「肉もう少し」。

一樹のため息。

四葉の「こぼさない技術、向上した」。

六樹の静かな記録。

そして、二葉の横には、当たり前のように五樹がいた。

誰かが見れば、距離が近いと言ったかもしれない。

けれど、二人にとっては違う。

近いのではない。

そこが、いつもの位置だった。

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