2章 開店3日前
この日初めて、すべてのスタッフが店に集まった。
前に明が立ち、横には良男がいた。
部屋には、11名の年配の白髪交じりの女性がいた。
服装はジーパンにフリースを来てグレーのジャンバーか、スーパーのレジの手前に置かれている980円の中綿入りのジャージを着ていた。
スカートを履いた人はなく、買い物袋を持っている人でよく見る普段着のおばちゃんの格好であった。
そこには、山本のおばちゃんもいた。
山本のおばちゃんは、良男が直接誘った。
良男は、突然行って、
「仕事しませんか?」と誘うのは、失礼でないかと思っていたが、どうしても声掛けはしたかった。
面識もあまりないけど、助けたかった。
「時給の良い仕事の話があります。風俗ですが。清掃の仕事に比べたら、あなたの頑張り次第で、2倍でも、3倍でもなります。騙されたと思って、一度やってみませんか?」と自宅まで行って誘った。
山本のおばちゃんは、突然の話に驚いていた。
良男の顔見て、
「ありがとうございます。」と頭を下げた。
「私、今、お金がないの。」
「年金暮らしなの。」
「生きることって、お金が欲しい。」
「国民年金だけでは生活できない。」
「子供にも迷惑掛けられない。」
「だから自分で、何とかせなあかんのよ。死んだら楽なんやけどね。」とおばゃんの目は、悲しそうだった。
「知らない人なら断るけど、酒屋さんの言う事なら聞くわ。」
「私でも、酒屋さんが、いい人間か、悪い人間か解ります。」
「あなたは、得意先でもない私の買った古古古米を配達してくれました。」と言った。
「詳しい内容は説明会で話しますので、参加してください。」
「いやなら、そこで断ってもらっても、かまわないです。」と山本さんのおばちゃんに説明会の日時と場所を伝えた。
良男は玄関の戸を閉めようとしたときに、振り返って、
「からだは、売りません。」と真顔で良男が付け足した。
山本のおばちゃんは、笑っていた。
明は、店の説明をした。
「はじめまして、川村 明と言います。この店のマネージャーです。」
「横にいるのが、オーナーの山崎 良男です。」
「この店の名前は、仮面の館、ミステリアスです。」
「不思議な体験です。」
「お客様に、夢と希望と幸せを与えられる、癒しの館です。」
「みなさんには、そのお手伝いをして欲しい。」
「簡単に言えば、風俗です。ピンサロです。」と明が言った。
おばちゃんを集めるときに、仕事の詳しい内容は、言ってないけど、風俗であること伝えていた。
それに時給も高いし、能力給も付くことを伝えていた。
ここにいるおばちゃんたちは、金がない人達である。
国民年金だけでは、生活できない人達である。
若い時に必死になって働き、家庭を守り、子供を育て、この国を盛り立てた人達です。
国民年金を満額払った人でも、68000円じゃ生きて行けない。
明から見て、右奥のめがねを掛けたおばちゃんが言った。
「マネージャー、私達は何をすればいいんですか?」
「身体は売れません。」
明は、
「今から説明します。最後まで聞いてください。」
「質問はその後で、受け付けます。」
「いいですか?」と明が言うと、みんなが頷いた。
「簡単に言えば、エロかっこいい、おねえちゃんになってもらって、男性のちんちんをなめて欲しい。」
「それで、お客様の男性に最高の一発を出させるのです。」
「気持ちよければ、気持ちいいほど満足し、あなたの虜になり、店が流行り、あなたたちに、高い給料を払うことができます。」明が真剣な表情でいった。
どれだけ、気持ちの良い一発を出すことが出来るかに、この店の、みんなの未来がかかっている。」私は真面目ですと明が言った。
先ほどのめがねの女性が、
「うちらでいいの?」
「若い子しかええんと違うの?」
「顔見れば、みんな年寄りやで!」とメガネの女性が言った。
「明るかったら、無理やで!」とメガネのおばちゃんが言った。
ここで明が、
「吉永小百合さんがミニスカート履いていてもかわいいでしょ。」
「風吹ジュンさんが夜9時に、セーラー服を着て十三の駅に立っていれば、男は声をかけるでしょ。」
「風吹ジュンさんは70を超えてるし、吉永小百合さんは80を超えているんですよ。あなた達はまだ60代ですよ。」
「いけます。いけます。大丈夫です。」と言っておばちゃん達を黙らした。
明は続けて店の説明を始めました。
「ここは、みなさんの控室ですが、控室の向こうにローカがあって、その向こうに後で見てもらいますが、8個の個室があります。。」
「営業中個室は、豆球に赤いセロハンをはり、薄赤く、顔は仮面をつけ、胸には偽りのボインをつけ、身体は補正下着で固めます。」
「あとは、男が喜ぶような服を着れば、あなたたちは主人公です。」と明は、一人一人の目を見ていった。
「若い子達には、負けていないよ。」
「あなたたちには、外面から来る美しさと内面から来る美しさの調和があります。」
「だからミステリアスなんです。魅了するのです。」
「気付いていないのは、あなたたち自身です。」
「私も風俗の世界を内からも外からも見てきました。」
「胸を張って、背筋を伸ばせば、若い娘に負けない色気があります。」
「私が保証します。」と言った。
「でも、見る人が見れば、私たちが年寄りとばれるで?」とメガネのおばちゃんが言った。
「そんな人はここへは解る人は来ません。」
「ここへ来るのは、真面目な人。」
「金のない人。」
「好きな人です。」
「だから、そんな心配はいらないんです。」
「あなたたちは、ミステリアス。」
「昼間はおばちゃんでも、この館へ来れば、エロかっこいいおねえちゃんです。成りきってください。想像力があなた方を高めます。」
良男は明が居てくれて、良かったと思った。
「続いて、給料の話をします。」と明が言った。
部屋の中は、シーンとしていた。
みんな明の目を見ていた。
「給料は、この店に居る時間×一〇〇〇+歩合+ボーナス+雑費です。」と言った。
「この店の営業時間は、昼3時から夜10時までとします。」
「始めは土地柄、サラリーマンが多いので、日曜日を休みにしますが年内は29日まで無休とします。営業を続けていけばデータが取れますので、その時ごとに休みの日を修正しながらやっていくつもりです。」
「レギュラーコース、Lコースはコンドームを付けるになっていますが、そんな店では、今の時代に生きて行けません。」
「スペシャルコースを作ります。Sコースは生でお願いいたします。自由恋愛です。」
「値段の想定は、30分、Lコースは3000円、Sコースが4000円です。」
「勤務時間、出勤日は、出来るだけみなさんの都合に合わせますので、わがままを言ってください。ただ、こちらもわがままを言う時があります。その時は、相談にのってください。」
「例えば、昼3時から夜10時まで働いた場合、午後2時半出勤で午後10時半退社の場合。勤務時間が8時間×1000円=8000円と、お客様を8人とった場合、Sコースで計算すると、一人に付、4000円の半分の2000円を歩合としますので、2000円×8人で16000円になります。」
「1日、24000円となります。夢あるでしょう。」
「それに、月間売り上げナンバーワンには、良く頑張ったで賞として、臨時ボーナス100000円を出します。」
「やる気出て来たでしょう。」
「ただこのような商売は流行りものです。」
「飽きられたら終わりです。賞味期限は短いです。」
「だからスタートダッシュで、儲けるだけ儲けましょう。」
「一日でも長く。みんなでがんばろう。」
「私を信じてください。」
明は、みんなの目を見た。
みんなも明の目を見ていた。
「あとは交通費として10000円。下着代とストッキング代と白髪染めに10000円。」
「それに、指名料1000円は指名された方にそのまま差し上げます。」
「店の利益にもよりますが、夏と冬にボーナスも出します。」
「あと、食費代はどうしよう?」と明が周りを見た。
「始めは、弁当でもと思ったんですけど、毎日、毎日、その日の出勤の人のタイムスケジュールまで管理するのは大変だし、予定の変更とかあると思うので、何かいい方法ありませんか?」と明が言うと。
良男が、初めて口を開いた。
「米なら炊くよ。米はあります。ただおかずが?」と言うと、
一瞬、間をおいて、
「一日5時間以上働く人に、500円でどうですか?」
「この商店街には、スーパーも、コンビニにも、惣菜屋さんもあるし、何なら自分でおかずを持って来てください。」と明が言った。
おばちゃんたちは、小さくうなずいた。
すぐに良男が、
「給料は働いた当日に、現金で日当の9掛けで払います。」
「例えば、勤務時間が8時間で、8人のお客を持てば、8×1000+2000×8=24000円となり、それの9掛けなので、21600円があなたの日給です。」
「残りの1割は、月末に指名料+雑費+交通費+臨時ボーナスから税金を引いて渡します。」と良男が言った。
おばちゃん達は、にこにこしていた。
がんばったら、1日24000円になる。
ほな、がんばろう。国民年金だけの生活では、明日が見えない。
もし、1日10000円でもあれば、生きて行ける。自分の人生が取り戻せる。人生を謳歌出来る。明日が楽しい。
良男は怖かった。まだ10円も儲けていないのに、お金だけが出ていく。それも何百万円も出ていく。
良男の借金の返済はこのおばちゃん達にお願いする以外なかった。
おばちゃん頼みである。弱い。
風俗許可申請の費用、店の建築費用、店の開店費用諸々である。
良男と明は、この店が開店すると決まってからは、何度も何度も、話し合い、考える限りの想定をした。
明には店を回す費用も含めて1000万円を用意して欲しいと言われていた。
「2時間回ったので、今日はこれぐらいにします。」
「何か質問のある方はありませんか?」
「もし、やっぱり無理と言う人があれば、いつでも辞めてもらって結構です。明日の説明会に来なくてかまいません。明日まで考えてください。」
「自己紹介は明日します。」と明が言って白い封筒を一人ずつ目を見て、
「今日はありがとうございます。」と明が言いながら渡した。
封筒には2時間の説明会の日当として、5000円が入っていた。
「明日は、店の説明を行います。」と明が言った。
良男と明は、店を出で行くおばちゃんひとり、ひとりに「ありがとうございます。」と言いながら、一礼して見送った。




