『リリエルが三人の関係に本音で踏み込む回』
昼下がりの中庭。
噴水の水音が穏やかに響いている。
アルベルトとレディアナは、並んでベンチに座っていた。
距離は近い。
だが触れない。
以前より自然。
それでもどこか、慎重な空気。
そこへ。
「……あの、お二人とも」
リリエルが、真正面から歩いてきた。
逃げない足取り。
迷いのない目。
レディアナの背筋がわずかに伸びる。
(正面衝突?)
(新イベント?)
アルベルトも気づき、姿勢を正す。
「どうした、リリエル」
リリエルは一度深呼吸をした。
そして、はっきり言う。
「今日は、逃げないで話したいです」
静寂。
噴水の音だけが聞こえる。
レディアナの思考が警戒を始める。
(話す内容は?)
(責任の所在?)
(関係の再定義?)
だがリリエルは、意外な方向から切り込んだ。
「わたし、ずっと受け身でした」
二人がわずかに目を見開く。
「殿下に優しくされて、レディアナ様に怒られなくて、状況に流されて」
小さく笑う。
「でも、それってずるいなって思ったんです」
レディアナの眉が、ほんの少し動く。
ずるい。
その言葉は想定外。
「わたし、レディアナ様の嫉妬に甘えてました」
空気が止まる。
アルベルトが息をのむ。
レディアナの胸が小さく跳ねる。
「知っていたのですか」
声は静かだが、確かに揺れている。
リリエルは頷く。
「なんとなく、ですけど」
「レディアナ様が苦しんでるの、分かってたのに」
視線を落とす。
「わたし、何も言わなかった」
沈黙。
風が、柔らかく吹く。
レディアナの中で、何かが静かに動く。
これは責めではない。
自己告白。
「だから今日は、ちゃんと聞きたいんです」
リリエルはまっすぐに二人を見る。
「わたしたち、どうなりたいんですか?」
直球。
逃げ場なし。
アルベルトは言葉を探す。
だが先に動いたのは、レディアナだった。
「どう、とは?」
時間稼ぎ。
だがリリエルは退かない。
「殿下は、誰をどう思っているんですか」
「レディアナ様は、何を望んでいるんですか」
噴水の水音がやけに大きく感じる。
アルベルトは静かに答える。
「私は、レディアナを大切に思っている」
はっきりと。
揺らがず。
「だが、リリエルも大切だ」
そこで止まる。
誤魔化さない。
レディアナの胸がきゅっとなる。
だが逃げない。
次は自分の番だ。
(望み)
(最適解ではなく)
(本音)
怖い。
だが、待たれている。
リリエルも逃げない。
レディアナはゆっくり息を吸う。
「わたくしは」
声がわずかに震える。
「殿下に、選ばれたいと思っております」
言ってしまった。
静かな告白。
計算なし。
理屈なし。
ただの願望。
アルベルトの目が揺れる。
リリエルは小さく微笑む。
「ちゃんと聞けました」
ほっとしたように言う。
そして、続ける。
「わたしは……殿下が好きです」
今度は、彼女の番。
空気が震える。
だが不思議と、爆発はしない。
三人とも、逃げないから。
リリエルは言う。
「でも、奪いたいわけじゃない」
「曖昧なままが、一番ずるい」
レディアナの胸が静かに痛む。
けれど今回は、崩れない。
嫉妬はある。
でも、それだけじゃない。
「わたくしは」
視線をリリエルに向ける。
「あなたを敵とは思っておりません」
本音だった。
「……怖いだけですわ」
小さな告白。
リリエルの目が少し潤む。
「わたしも、怖いです」
三人が初めて、同じ場所に立つ。
敵役も、ヒロインも、王子も。
ただの、不器用な若者。
長い沈黙の後。
アルベルトが言う。
「結論は、急がない」
待つ。
だが今回は三人で。
リリエルは頷く。
「逃げない、でいいですか」
レディアナも小さく頷く。
「……ええ」
物語は、まだ決着しない。
婚約も、恋も、立場も。
だが初めて、
三人は“役割”ではなく
“意思”で向き合った。
噴水の水音が、柔らかく響く。
派手な断罪も、
劇的な選択もない。
けれど確実に、
この物語はもう
“何も起きない話”ではなくなっていた。




