表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は悪役令嬢らしく振舞うためにじっくり考える  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

『リリエルが三人の関係に本音で踏み込む回』

昼下がりの中庭。


噴水の水音が穏やかに響いている。


アルベルトとレディアナは、並んでベンチに座っていた。


距離は近い。


だが触れない。


以前より自然。


それでもどこか、慎重な空気。


そこへ。


「……あの、お二人とも」


リリエルが、真正面から歩いてきた。


逃げない足取り。


迷いのない目。


レディアナの背筋がわずかに伸びる。


(正面衝突?)


(新イベント?)


アルベルトも気づき、姿勢を正す。


「どうした、リリエル」


リリエルは一度深呼吸をした。


そして、はっきり言う。


「今日は、逃げないで話したいです」


静寂。


噴水の音だけが聞こえる。


レディアナの思考が警戒を始める。


(話す内容は?)


(責任の所在?)


(関係の再定義?)


だがリリエルは、意外な方向から切り込んだ。


「わたし、ずっと受け身でした」


二人がわずかに目を見開く。


「殿下に優しくされて、レディアナ様に怒られなくて、状況に流されて」


小さく笑う。


「でも、それってずるいなって思ったんです」


レディアナの眉が、ほんの少し動く。


ずるい。


その言葉は想定外。


「わたし、レディアナ様の嫉妬に甘えてました」


空気が止まる。


アルベルトが息をのむ。


レディアナの胸が小さく跳ねる。


「知っていたのですか」


声は静かだが、確かに揺れている。


リリエルは頷く。


「なんとなく、ですけど」


「レディアナ様が苦しんでるの、分かってたのに」


視線を落とす。


「わたし、何も言わなかった」


沈黙。


風が、柔らかく吹く。


レディアナの中で、何かが静かに動く。


これは責めではない。


自己告白。


「だから今日は、ちゃんと聞きたいんです」


リリエルはまっすぐに二人を見る。


「わたしたち、どうなりたいんですか?」


直球。


逃げ場なし。


アルベルトは言葉を探す。


だが先に動いたのは、レディアナだった。


「どう、とは?」


時間稼ぎ。


だがリリエルは退かない。


「殿下は、誰をどう思っているんですか」


「レディアナ様は、何を望んでいるんですか」


噴水の水音がやけに大きく感じる。


アルベルトは静かに答える。


「私は、レディアナを大切に思っている」


はっきりと。


揺らがず。


「だが、リリエルも大切だ」


そこで止まる。


誤魔化さない。


レディアナの胸がきゅっとなる。


だが逃げない。


次は自分の番だ。


(望み)


(最適解ではなく)


(本音)


怖い。


だが、待たれている。


リリエルも逃げない。


レディアナはゆっくり息を吸う。


「わたくしは」


声がわずかに震える。


「殿下に、選ばれたいと思っております」


言ってしまった。


静かな告白。


計算なし。


理屈なし。


ただの願望。


アルベルトの目が揺れる。


リリエルは小さく微笑む。


「ちゃんと聞けました」


ほっとしたように言う。


そして、続ける。


「わたしは……殿下が好きです」


今度は、彼女の番。


空気が震える。


だが不思議と、爆発はしない。


三人とも、逃げないから。


リリエルは言う。


「でも、奪いたいわけじゃない」


「曖昧なままが、一番ずるい」


レディアナの胸が静かに痛む。


けれど今回は、崩れない。


嫉妬はある。


でも、それだけじゃない。


「わたくしは」


視線をリリエルに向ける。


「あなたを敵とは思っておりません」


本音だった。


「……怖いだけですわ」


小さな告白。


リリエルの目が少し潤む。


「わたしも、怖いです」


三人が初めて、同じ場所に立つ。


敵役も、ヒロインも、王子も。


ただの、不器用な若者。


長い沈黙の後。


アルベルトが言う。


「結論は、急がない」


待つ。


だが今回は三人で。


リリエルは頷く。


「逃げない、でいいですか」


レディアナも小さく頷く。


「……ええ」


物語は、まだ決着しない。


婚約も、恋も、立場も。


だが初めて、


三人は“役割”ではなく


“意思”で向き合った。


噴水の水音が、柔らかく響く。


派手な断罪も、


劇的な選択もない。


けれど確実に、


この物語はもう


“何も起きない話”ではなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ