『三人が初めて一緒に出席する公式行事回』
王城・春季園遊会。
貴族子女、重臣、各家の令息令嬢が集う、半ば社交界の戦場。
そこに――
王子アルベルト。
婚約者レディアナ。
そして、王子が特別に招待した平民代表リリエル。
三人が並ぶ。
それだけで、場の空気がざわめいた。
「……あれが例の」
「修羅場になるのでは」
「ついに断罪か?」
期待に満ちた視線。
レディアナはそれを感じ取る。
(外圧、強)
(挑発、観測多数)
(ここでの最適解は――)
一瞬、思考が走る。
だが今日は違う。
今日は、三人で“逃げない”と決めた日。
アルベルトが低く言う。
「大丈夫か」
レディアナは小さく息を整える。
「問題ありませんわ」
リリエルは緊張で少し青い。
「わ、わたし場違いでは……」
その瞬間。
レディアナが、静かに言った。
「本日は王子殿下の正式な招待客です」
周囲に聞こえる声量。
凛とした響き。
「場違いなど、ございません」
ざわり、と空気が変わる。
リリエルが驚いてレディアナを見る。
レディアナは視線を前に向けたまま。
(これは敵対ではない)
(立場の整理)
(そして――)
ほんの少しの、意地。
嫉妬は消えていない。
だが今日は暴れない。
アルベルトが一歩前に出る。
「紹介しよう。彼女はリリエル。学園の優秀な生徒だ」
堂々と。
隠さない。
その態度に、噂好きの貴族令嬢たちは肩透かしを食らう。
「……あら、争わないの?」
「静かすぎるわ」
だが静かだからこそ、緊張は高い。
やがて、一人の年配貴族が近づく。
「公爵令嬢。噂は聞いておりますぞ」
探る目。
試す声。
「殿下と平民の娘が親しいとか」
空気が止まる。
ここで、炎上すれば面白い。
誰もがそれを期待している。
レディアナは、ゆっくりと微笑んだ。
「殿下は多くの方と親しくなさいますわ」
一拍。
「それが王族の務めですもの」
完璧な社交回答。
角がない。
だが守りは固い。
貴族は少し拍子抜けした顔をする。
「では、気にしておらぬと?」
胸が、少しだけざわつく。
嫉妬が小さく顔を出す。
だが。
レディアナは自分で選ぶ。
「……気にはしておりますわ」
場が静まる。
アルベルトがわずかに目を見開く。
「ですが」
レディアナは続ける。
「それをどう扱うかは、わたくしの問題です」
逃げない。
否定しない。
他人にぶつけない。
その姿勢に、場の空気が変わる。
面白半分の視線が、少しだけ敬意に変わる。
リリエルの手が震えているのに気づき、
レディアナはほんのわずかに囁く。
「背筋を」
小声の助言。
リリエルはこくりと頷く。
アルベルトはそのやりとりを見て、静かに息を吐く。
三人は並ぶ。
以前のような不安定さではない。
完璧でもない。
だが、立っている。
堂々と。
遠くのバルコニー。
国王がそれを見下ろしていた。
「ほう……」
小さく笑う。
「やっと役割ではなく、選択で立っているか」
園遊会は終始、平穏だった。
誰も泣かない。
誰も叫ばない。
水も飛ばない。
だが噂は広がる。
「争わない悪役令嬢」
「逃げないヒロイン」
「待つ王子」
それは、予想外の形で三人の立場を強くした。
帰りの馬車。
沈黙。
やがてリリエルが言う。
「今日、怖かったです」
「わたくしも」
レディアナは素直に答える。
アルベルトが小さく笑う。
「だが、逃げなかった」
三人の目が合う。
不器用な関係。
まだ答えは出ない。
だが確実に、
もう“何も起きない話”ではない。
選びながら進む物語になっていた。
レディアナは小さく呟く。
「……嫉妬、管理可能範囲内」
だがその声は、
どこか少しだけ柔らかかった。




