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悪役令嬢は悪役令嬢らしく振舞うためにじっくり考える  作者: 南蛇井


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10/11

『三人が初めて一緒に出席する公式行事回』

王城・春季園遊会。


貴族子女、重臣、各家の令息令嬢が集う、半ば社交界の戦場。


そこに――


王子アルベルト。


婚約者レディアナ。


そして、王子が特別に招待した平民代表リリエル。


三人が並ぶ。


それだけで、場の空気がざわめいた。


「……あれが例の」


「修羅場になるのでは」


「ついに断罪か?」


期待に満ちた視線。


レディアナはそれを感じ取る。


(外圧、強)


(挑発、観測多数)


(ここでの最適解は――)


一瞬、思考が走る。


だが今日は違う。


今日は、三人で“逃げない”と決めた日。


アルベルトが低く言う。


「大丈夫か」


レディアナは小さく息を整える。


「問題ありませんわ」


リリエルは緊張で少し青い。


「わ、わたし場違いでは……」


その瞬間。


レディアナが、静かに言った。


「本日は王子殿下の正式な招待客です」


周囲に聞こえる声量。


凛とした響き。


「場違いなど、ございません」


ざわり、と空気が変わる。


リリエルが驚いてレディアナを見る。


レディアナは視線を前に向けたまま。


(これは敵対ではない)


(立場の整理)


(そして――)


ほんの少しの、意地。


嫉妬は消えていない。


だが今日は暴れない。


アルベルトが一歩前に出る。


「紹介しよう。彼女はリリエル。学園の優秀な生徒だ」


堂々と。


隠さない。


その態度に、噂好きの貴族令嬢たちは肩透かしを食らう。


「……あら、争わないの?」


「静かすぎるわ」


だが静かだからこそ、緊張は高い。


やがて、一人の年配貴族が近づく。


「公爵令嬢。噂は聞いておりますぞ」


探る目。


試す声。


「殿下と平民の娘が親しいとか」


空気が止まる。


ここで、炎上すれば面白い。


誰もがそれを期待している。


レディアナは、ゆっくりと微笑んだ。


「殿下は多くの方と親しくなさいますわ」


一拍。


「それが王族の務めですもの」


完璧な社交回答。


角がない。


だが守りは固い。


貴族は少し拍子抜けした顔をする。


「では、気にしておらぬと?」


胸が、少しだけざわつく。


嫉妬が小さく顔を出す。


だが。


レディアナは自分で選ぶ。


「……気にはしておりますわ」


場が静まる。


アルベルトがわずかに目を見開く。


「ですが」


レディアナは続ける。


「それをどう扱うかは、わたくしの問題です」


逃げない。


否定しない。


他人にぶつけない。


その姿勢に、場の空気が変わる。


面白半分の視線が、少しだけ敬意に変わる。


リリエルの手が震えているのに気づき、


レディアナはほんのわずかに囁く。


「背筋を」


小声の助言。


リリエルはこくりと頷く。


アルベルトはそのやりとりを見て、静かに息を吐く。


三人は並ぶ。


以前のような不安定さではない。


完璧でもない。


だが、立っている。


堂々と。


遠くのバルコニー。


国王がそれを見下ろしていた。


「ほう……」


小さく笑う。


「やっと役割ではなく、選択で立っているか」


園遊会は終始、平穏だった。


誰も泣かない。


誰も叫ばない。


水も飛ばない。


だが噂は広がる。


「争わない悪役令嬢」


「逃げないヒロイン」


「待つ王子」


それは、予想外の形で三人の立場を強くした。


帰りの馬車。


沈黙。


やがてリリエルが言う。


「今日、怖かったです」


「わたくしも」


レディアナは素直に答える。


アルベルトが小さく笑う。


「だが、逃げなかった」


三人の目が合う。


不器用な関係。


まだ答えは出ない。


だが確実に、


もう“何も起きない話”ではない。


選びながら進む物語になっていた。


レディアナは小さく呟く。


「……嫉妬、管理可能範囲内」


だがその声は、


どこか少しだけ柔らかかった。

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