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悪役令嬢は悪役令嬢らしく振舞うためにじっくり考える  作者: 南蛇井


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7/11

『嫉妬を自覚したことで逆にレディアナが素直になれなくなる回』

嫉妬を認めた翌日。


レディアナは、異様に落ち着いていた。


落ち着きすぎていた。


(嫉妬は存在する)


(危険だが、有用)


(だが制御不能ではない)


理屈では整理できた。


問題は――


アルベルトの顔を見ると、整理が崩れることだった。


学園・回廊。


「おはよう、レディアナ」


アルベルトが声をかける。


一瞬、胸がきゅっとする。


(ここで素直に挨拶を返す)


(昨日は感情で話した。今日は安定を示す)


完璧な計画。


「……ごきげんよう、殿下」


声が、微妙に硬い。


アルベルトがわずかに首を傾げる。


「体調は?」


「万全ですわ」


即答。


距離を取る。


微妙に、取る。


自分でも分かるほど、不自然に。


(なぜ距離を取るの)


(嫉妬を認めたのだから、逃げる必要はない)


分かっている。


だが、近づくとまた揺れる気がして――


防御。


完全に、防御。


アルベルトは少し黙ってから言う。


「今日は図書室に行くが、君も来るか?」


昨日までなら、誘い。


今日は――


試練。


胸が一瞬跳ねる。


(行く)


(行って隣に座る)


(普通に話す)


それが最適。


だが口から出たのは。


「……リリエル様とご一緒では?」


自分で言って、固まる。


棘。


ほんの少しの棘。


アルベルトも気づく。


「いや、彼女は別件だ」


「そうですの」


無表情。


だが心は荒れている。


(なぜ確認したの)


(嫉妬を意識しすぎ)


(逆に小さい)


自己嫌悪。


アルベルトは静かに言う。


「レディアナ」


「はい?」


「昨日、私は君の感情を嬉しいと言った」


胸が揺れる。


「それは今も変わらない」


沈黙。


「だから、無理に強くならなくていい」


直撃。


レディアナの思考が乱れる。


(強く……?)


(今のわたくしは、強がっている?)


自覚。


ある。


完全にある。


だが認めたら崩れる気がする。


「誤解ですわ」


口が勝手に動く。


「わたくしは常に理性的です」


(嘘)


心が即座に否定する。


アルベルトは小さく息を吐く。


「昨日より、距離が遠い」


図星。


完全に図星。


レディアナの指先が震える。


(近づきたい)


(でも近づいたら、また揺れる)


(揺れる自分を見せたくない)


完璧でありたい。


悪役令嬢として。


公爵令嬢として。


感情に振り回されない存在で。


だから――


「殿下は、リリエル様とお話なさるほうが自然では?」


言ってしまう。


アルベルトの目が少しだけ曇る。


「それは、君の本心か?」


沈黙。


本心ではない。


だが素直にもなれない。


胸が痛い。


これが嫉妬の二次作用。


自覚したことで、


守りに入る。


レディアナは視線を逸らす。


「……最適解ですわ」


アルベルトはしばらく何も言わない。


そして、静かに言う。


「私は、最適解より本音のほうが聞きたい」


完全に防御が崩れかける。


だが、最後の壁が立ちはだかる。


――怖い。


拒絶されたらどうする。


笑われたらどうする。


比較されたらどうする。


嫉妬を自覚したことで、


“失う可能性”まで明確になった。


だから素直になれない。


レディアナは一歩引く。


「授業が始まりますわ」


逃げ。


今回は明確な逃げ。


去っていく背中。


アルベルトは追わない。


ただ、静かに見送る。


その頃。


少し離れた柱の陰でリリエルが見ていた。


「……距離が遠い」


小さく呟く。


昨日より、確実に。


感情を認めたのに、


そのせいで余計に硬くなる。


レディアナは廊下を歩きながら思う。


(なぜ素直になれない)


(昨日は言えたのに)


答えは分かっている。


昨日は勢い。


今日は恐怖。


嫉妬は、相手を大切に思う証。


だが同時に、


自分が傷つく可能性を突きつける感情。


完璧な悪役令嬢は傷つかない。


だが今の彼女は、違う。


教室の前で立ち止まる。


小さく呟く。


「……未熟ですわ」


だが今回は、


少しだけ違う。


逃げたことを、


ちゃんと自覚している。


物語は前に進んだ。


だが今は、


少しだけ後退。


それでも――


停滞ではない。


揺れながら進む、


不器用な悪役令嬢の物語。

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