第98話 歩み寄らず
309年11月・平陽――――――
宜陽から平陽に戻ってきた俺は早速、父・劉淵の元に向かった。
「おぉ............無事に戻ってきたか永明よ」
劉淵は牀に横たわっていた。
出立前に見た時よりもやつれおり、顔も土気色でかなり容態が悪化してるのが見て取れた。
「ところで玄明はどうした?」
「あ、兄上は..............」
俺は視線を逸らした。
劉聡は帰ってくるなり後宮に引き籠もってしまったのだ。
なんという親不孝者だ、と言いたいところではあるが本人が嫌がっている以上、無理強いは出来なかった。
「そうか................のう永明よ こないだ太医に診てもらったのだが、残すところ1年と言われてしまった わしが生きている間に晋の滅亡を見届けることは不可能になった」
「――――――ッ」
「そう落ち込むな 人間誰しも生があれば死もある。わしは死ぬが大漢が滅ぶ訳ではないのだ。永明は縁あってわしの族子となりて今に至る。わしの死後もキッチリ働いてくれたまえ」
そういう父であったが、やはり大業半ばで死ぬのは悔しいのか、その龍のような瞳には涙が浮かんでいた。
そして俺は翌日から父の世話に明け暮れるようになった。
汗で濡れた躰を拭い、薬湯の時間になれば手づから飲ませた。ずっと同じ体勢ではならぬと向きを変えたりもした。
そうやっている内に気付けば1週間が経過したが、実の子達が見舞いに来ることはなかった...............
そんなある日、いつものように匙を使って薬湯を飲ませていると、父はこう呟いた。
「永明よ 何故こうも、わしに尽くす...............我が子が見舞いに来ない時点でわしがどのような親であったか予想出来るであろうに」
俺は薬湯を飲ませていた手を止めた。
「事情は兄上から訊いてます................でも俺にはそんな事情は関係ありませんから、実の父を早くに亡くした俺を引き取ってくれたのは紛れもなく父上であり、その恩は泰山よりも高い この恩を返さなかったら俺は一生後悔する」
「................其方がわしの子であったらなァ」
「父上それを言ってはなりませぬ 父ならば我が子を信じるべきです。父が子を信じていないのであれば逆もしかりかと..............」
仮に俺が実子であったら、この父上は多分、長幼の序などお構いなしに俺を後継者に据えたはずだ。
(そうなれば今より酷い兄弟争いは必至、場合によっちゃ晋より漢が先に滅びてたかもなァ...........まあこの先、何が起こるか知らんが)
「.................」
その後しばらく父上と話したが、今更実子と和解する気はないという。
下手に歩み寄れば却って仲が拗れて新たな火種が生まれては漢の存亡に関わる、という理由であった。




