第95話 王弥の提言
幸い夜襲してきた晋軍は少勢だったことから、遊軍の王弥と曹嶷が攻勢に転じると直ぐに退いていったという。
そして夜襲によって焼け落ちた劉聡の本陣に代わって俺の陣営が本陣として使われることになり、「楚」の牙旗や「車騎大将軍」の幟旗が移された。
「ガハハ!! 見事にやられたのォ 小童共」
敵将の首をぶら下げて陣内に入ってきた王弥はセラセラと笑った。俺は直ぐさま立ち上がり拱手して出迎える。
「王弥殿、敵の夜襲部隊を追い払ってくれた事、大いに感謝致す。この通り楚王に代わって御礼申し上げる」
「で、楚王はどこだ?」
「..............楚王は体調が優れぬ故、休んでおられる」
「体調不良? 戦功挙げられずに自棄になって大酒を食らっているのだろう?」
俺は溜息した。
王弥の言うとおりであった.........全ての指揮権を俺に押し付けた後、劉聡は陣中の奥に引き籠もってしまったのだ。
「貴様の兄も難儀なものだな いっその事、貴様が兄に取って代わったらどうか? オレは悪くないと思うがなァ」
「王弥殿まで兄弟の和を乱そうとするか 俺はあくまで漢室の臣下だ」
(コイツも茶々入れてきやがるのか..............そんなに俺の態度が気に入らねぇのか)
「ふん、乱そうとする気はないさ。ただ此度の大功を隠し通せるとでも思ってんのか?」
「大功だと?」
俺は目を細めた。
大功があると言われても何せ心当たりがないのだ。宜陽か、それとも長平か.................
「しらばくれるなよ小童 長平で楚王の軍を助けたばかりか、2人の敵を射殺したと訊いておるぞ」
「................物見のついでに2人程、射った憶えはあるが、それがどうした?」
“俺、何かやっちゃいました?“ と云わんばかりの態度に王弥は大きく息を吐く。
そして顔をズイッと近づけると小声でこういった。
「自覚がないようなら教えてやる小童 貴様が手ずから討ち取ったのは晋軍の左右を率いていた施融と曹超だ。両将を欠いた晋軍左右は統制が執れなくなり、そこへ貴様の軍が突っ込んでいった..............つまり長平の第一功は貴様という訳だ 理解したか?」
(――――――ッ ただの騎兵かと思っていたが、まさか晋将とは思わなかったな...............)
陰から兄上らを支える処か、主役級の活躍をしてしまったのである。
「もう諦めろ 無自覚な行動だけでこれ程の戦果を挙げてるのだ。本気を出せば洛陽のみならず、長安さえも手中に収められるであろう」
俺は王弥から視線を逸らした。
「..............戯言はよせ それで楚王に何用で参られた?」
「楚王にこう伝えろ もう潮時だとな。食糧は数日しかなく。洛陽の守備も堅くなっている。このまま継戦しても漢軍に勝機はない」
「..............し、しかし今の楚王が撤退に応じるかどうか」
「たわけ 貴様以外の言葉ではもっと訊かぬわ よいか今の楚王は玩具を取られまいと駄々をこねる赤子同然、貴様が親の如く諭したり叱ったりせねばならぬのだ 武の面のみならず、そういった面でも支えてやれば疑われて排除される事はなかろう」
それだけ言い残すと王弥は風の如く去っていった。
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