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第93話 平陽からの報せ



洛水(らくすい)に本陣を移してから5日が経った。



 呼延翼(こえんよく)呼延顥(こえんこう)が率いていた歩兵は臨汾(りんふん)を経由して平陽(へいよう)へ帰ってしまった。


 皇帝・劉淵(りゅうえん)は敗報を受けると直ぐさま本陣に使者を遣わして、平陽へ撤退するよう劉聡に命を下した。


 しかし劉聡は諦めきれずに書状を平陽へ送って継戦する旨を伝えたのだった。


―――――― “我 功に焦りて賊の反撃を受け2将を失う。然れど晋兵弱く、今更兵を退くは2将の死を無駄にする事と同義なり 願わくば再び攻勢に出、城を攻め取らん“ と..............



――――――洛水・劉曜(りゅうよう)


「そんでその北宮純(ほくきゅうじゅん)ってのは誰なんだ?」


涼州(りょうしゅう)刺史(しし)張軌(ちょうき)の配下だ。寡黙で勇猛果敢な将だって話だ」


 劉聡から報せも命令も来ない為、動きようがない俺は汝陰王(じょいんおう)劉景(りゅうけい)と陣中で碁を打つ日々が続いていた。


「へぇ 涼州から遠路遥々、都を救いに来たって訳か、中々の忠義者だな」


「忠義というより刺史からの命令だったから仕方なく来ただけだろう」


「しかし、こんなガッタガッタな晋を支えようとするとは、その張軌ってのは余程の大馬鹿かそれとも何らかの野心でもあるのか」


「地方刺史の頭ん中など景らの知ったこっちゃない。それよりマズいのは再びあの北宮純が攻めてきた時のことだ 景としては先に奴らを滅ぼして後顧の憂いを絶ちたい............が楚王(そおう)が何もしねぇんじゃな~」


 劉景は手にしていた碁石を明後日の方向にぶん投げるとドサッと仰向けに寝っ転がった。



そう愚痴ってると衛兵が駆け込んできた。



「申し上げます!! 都より太尉(たいい)様がご到着されました。至急、龍驤(りゅうじょう)殿にお会いしたいとのことです」


「太尉自ら来たのか.................」



俺と劉景は直ぐに鎧を着て長剣を佩くと太尉・劉宏(りゅうこう)を迎え入れた。


「これは龍驤殿、お久しゅうございます」


「太尉殿もお変わりないようで安心しました。ところで突然のお越し、如何なされたか?」


「龍驤殿は仁や義に厚いお方、故に此度の沈黙を疑問に感じて参上した次第にございます」


「沈黙? 楚王からの命がない故、こうして動かぬのだが..............」


劉宏の言葉に劉景が首を傾げる。


「はて? お二方、特に龍驤殿は陛下からの書状を知らぬと?」


「書状? 知らないな................」


「..............すると楚王様は書状の内容を誰にも知らせてない、という事になりますな」


「何か重大事が?」


コクリと頷くと劉宏は懐から書状を取り出して此方に渡してきた。


パサッ


 渡された書状を開くとそこには文がみっちりと綴られていた。


 しばらく目を通した俺はソッと書状を畳んで劉宏に返した。


「太尉殿、ここに記されている事は本当のことなのか?」


「偽りを記したとて私には何ら得もない」


 書状には皇帝・劉淵が病に倒れて一時は昏睡状態に陥ったと記されていた。

 幸い意識は取り戻したものの、太医(たいい)(医者の意)曰く2度と起き上がる事は出来ぬとのこと...............その為、政務は梁王(りょうおう)劉和(りゅうか)に一任されたという。



(直ぐに帰らないと.................ッ)



「太尉殿、感謝申し上げる 汝陰王!! 太尉殿に肉と酒を出してやれ 俺は楚王に会ってくる」


「御意」 


劉宏の接待を劉景に任せると、俺はそのまま馬を駆って劉聡の本陣へと向かった。

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