第91話 洛陽の戦い 中篇
洛陽・将軍府――――――
「胡軍は宜陽を落として西明門に押し寄せている。今のところ左衛将軍の王秉が守備についているものの、胡軍の勢い凄まじく押され気味だ」
大将軍・司馬晏は地図を見ながら爪を噛んでいた。洛陽が描かれた地図の上には歩兵や騎兵を模した駒が散乱してた。
司馬晏は初代皇帝・司馬炎の23番目の子にして皇帝・司馬熾の弟にあたる人物であった。
既に戦が始まってから6日目に突入しており敵は退くどころか、更に攻勢を強めており西明門の守りも限界に達していたのだ。
「大将軍、滎陽より太傅が戻られました。お会いになられますか?」
「――――――ッ 宗室を好き勝手にしておきながら今頃、忠臣ずらしてノコノコとやって来るとは.............どこまでも醜い男よ」
「お気持ちは解りますが、今の晋を支えているのは太傅様にございます。あの方なくば晋は潰えていた筈にございます」
宦官の言葉に司馬晏は目頭を押さえた。
(いずれは彼奴に帝位も奪われるのだろうな..............)
まだ許しもしてないのに将軍府の入り口から勝手にスタスタ入ってくる司馬越の姿を見て司馬晏はそう感じた。
「大将軍、到着が遅れて申し訳ない。出陣の準備に手間取って予定より2日程遅れてしもうた」
司馬越は拱手して詫びた。
「遠路遥々ご苦労であった。太傅殿..............」
司馬晏はバラバラになっていた駒を回収すると定位置に置き直した。
「賊の様子はどうか?」
「先月大敗したとは思えない程で、あのまま放置すれば西明門は明日の朝には陥落するとみている」
「陥落か.............のう大将軍、ここは1つ門を明け渡してはどうか?」
「太傅は正気で申されているのか? 門1つ落ちれば敵は城内に入ってくる。それは自殺行為に他ならない!!」
司馬晏は目を見開いて司馬越に詰め寄るも彼は動じない。
司馬越は地図上にある “皇帝の駒“ を手にとると不敵な笑みを浮かべた。
「先月大敗して逃げ帰った敵が、此度は都の門を攻め落とすに至った...........敵にとっては感極まる状況であろう。何せ念願だった皇帝の首が手に入るのだから」
「まかさ皇帝を囮にするつもりか?」
「いくら私でも皇帝を囮になどせぬ。しかし大将軍の申される通り囮は必要...........いい疑似餌があれば敵の食いつきも良かろう」
しばらく考えた後、司馬越は自らが囮になる事を決めた。そして一時的に陛下を司馬晏に預けたのだった。
これは司馬晏に叛心あればいつでも司馬越を背後から討てるという事であり、かなり危険な判断とも云えた。
(司馬越め、敢えて私を試したな................ッ)
内心爆発寸前な司馬晏ではあったが、司馬越を殺しては相手の策にハマるようなものと考えて、大人しく太極殿へと向かうのであった。
――――――そしてその夜、西明門が陥落した。




