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第90話 洛陽の戦い 前篇

309年10月 洛陽(らくよう)――――――



「相変わらずデッケぇ城だな」



眼前に広がる巨城に俺は嘆息していた。



(確かここに来るのって簫叡(しょうえい)と一緒に反乱起こした以来だったような............)



 俺と劉聡(りゅうそう)劉景(りゅうけい)は黄河を渡り弘農郡(こうのうぐん)に入るとリベンジと云わんばかりに再び宜陽(ぎよう)を攻めた。

 この地を守っていた弘農太守・垣延(えんえん)は怒りに燃える劉聡によって鼻と耳を削がれてから八つ裂きの刑に処され、その亡骸は宣陽の東門に晒された。


 その後どこからやって来たのか王弥(おうび)の軍勢と合流しての洛陽がある河南郡(かなんぐん)に踏み込んだのだ。


「此方の総兵力は15万、そのうち騎兵は5万いる。やっと洛陽に来れたんだ 今度こそ糞の根城を攻め落としてやんよ」


隣で剣を高らかに掲げてそう宣言する劉聡に初めて俺は頼もしさを感じていた。


 歩兵を率いる征虜(せいりょ)将軍(しょうぐん)呼延顥(こえんこう)大司空(だいしくう)呼延翼(こえんよく)の両将は洛陽の西側に砦を築くとバラして持ってきていた井闌車(せいらんしゃ)雲梯車(うんていしゃ)霹靂車(へきれきしゃ)を組み立てた。



そして――――――



「「「攻め込めェェェェェェェ!!!」」」



 火の着いた藁や巨石、油壺が霹靂車から放たれ次々と西明門(せいめいもん)や城壁に命中する。

  火の着いた藁は城壁の楼閣に引火し、風に煽られて猛火と化す。漢兵は炎に巻かれて逃げ惑う晋兵を的確に狩っていった。


 晋軍もただ()れるのを待っていた訳ではなく西明門の南にある広陽門(こうようもん)から数千の軍勢で以て、寄せ手の側面を突こうとした、が――――――



「賊を滅せよ オレに続けェ!!!!」



 王弥と曹嶷が率いる遊軍が真っ直ぐ広陽門から出てきた晋軍の側面を突き、それを見ていた呼延翼が兵を率いて先頭を抑え込む。


 “大漁じゃ!!“ 王弥はそう叫ぶと得物である方天画戟(ほうてんがげき)を馬上から振るい晋兵を次々と殺していく。

 これに恐れおののいた晋軍は多数の死者を出しながら広陽門へ撤退していった。


 その間も西明門への猛攻が続けられていたが抵抗激しく完全制圧には至らなかった。


 2日目も似たような状況になり、3日目........4日目.........5日目..........と流れていった。



漢軍・本陣――――――


「初日から今日まで似たような展開ばかりじゃないか いつになったら西明門を落とすんだ?」


 糧食と兵を磨り減らすのみで未だに何ら戦果も挙げられていない状況に劉聡は怒りに露わにした。


「落ち着きなされ楚王(そおう) 焦る気持ちは我々も同じでござる。特に東莱公(とうらいこう)始安王(しあんおう)汝陰王(じょいんおう)は焦りを通り越して暴発寸前のはずなのによく堪えてござる。総大将たる楚王如きが堪えられぬとは情けない」


「.............ッ」


呼延翼は劉聡を宥めると諸将に向き直った。


「諸将よ、既に戦は明日で6日目に突入する。これだけの日数を掛けて門1つ落とせないのは我の不徳と致すところ..............然れど5日に渡る猛攻で敵も疲弊しているのは明らか、よって我は明日の夜半に全軍を率いて夜襲致す」


「...............」


「.................ッ」


「...............」


あっ コイツ、死ぬ気だ............この場に居合わせた諸将全員がそう思った。


 呼延翼は呼延攸(こえんゆう)の父であり、先に亡くなった丞相(じょうしょう)劉宣(りゅうせん)と共に劉淵(りゅうえん)の覇業を支えていた人物だ。



(責任を感じて焦るのは分かるけど、アンタ死んだら父上どうなるんだよ............両翼をもがれた鳥になるんだぞ)



――――――と俺がぼやいたところで、どうにかなるはずなく、



 6日目の夜中に呼延翼と呼延顥は約8万の歩兵を率いて西明門に総攻撃を掛けた。


 

劉綏(りゅうすい)王忠(おうちゅう)は楚王の左右を護れ!! 曹恂(そうじゅん)平先(へいせん)は俺と共に城内から出てくるであろう敵騎を始末するぞ」


「「「御意!!」」」



 直属の精騎兵数千を率いて俺は呼延翼の後詰めとなり、劉聡も本陣を西明門付近に移すと自ら騎兵を率いて呼延翼に加勢した。

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