第9話 鬼神奮戦
聶玄の右軍を大陵から汾水にまで追いやることに成功した劉景は兵を集結させるとそのまま汾水の畔に陣を敷いた。
そして自身は単騎で中軍の劉宏の元に向かった。
漢軍・中軍――――――
「右将軍・劉景 私は貴殿の勇猛さは大いに認めている..........されど先駆けは軍令に反する行為ぞ。更に言うと汾水に退いたとなれば北方の晋陽に落ち延びる可能性もあろう。仮に晋陽から再度軍を引き連れてきたら貴殿はどうする」
劉景は日中の行動について劉宏からお叱りを受けていた。
「これは申し訳ない。然れど敵の総大将・聶玄の兵力は僅か数千、我ら右軍は1万おります。敵が動く前に先駆けして数で押し潰そうとしたまでにございます。仮に晋陽からの援軍が来ようものなら叩き潰してご覧に入れます」
「まったく貴殿という人は.........ハァ この戦が最後ではない。この先もまだまだ死闘は続くのだ。戦力は温存せよ」
「分かりました」
軍中で勇猛な将軍を外すのは士気に関わるとして劉景の軍令違反は不問となったのだ。
翌日になると晋の左軍5千が全軍で漢の中軍に攻勢を仕掛けてきた。
左軍の将軍・石鮮は自軍を二手に分けると錐の陣形で一点突破を狙おうと精鋭騎兵を先頭にして突入............
しかしそんな事はお見通しと云わんばかりに劉宏の中軍は敢えて敗走するフリをして晋軍を軍中に誘い込むと重装歩兵が飢えた虎のように襲いかかった。
「遠慮はいらねぇ 晋の犬共を殺せェ!!」
「積年の恨みを晴らす時ぞ!!!」
「血祭りじゃァァ!!!!」
軍中に引き摺り込まれた晋兵共は足の腱を戟で斬られて軒並み転倒、そして倒れたところを一斉に漢兵が群がって剣や戟で滅多刺しにする。
哀れな犬共の断末魔が軍中に響き渡る。その様は屠殺場と呼ぶのが相応しい光景であった.............
晋軍・中軍――――――
「周良将軍!! いつ軍を動かすのですか!? まごまごしている間に右軍は北に退き、左軍も壊滅寸前にございますぞ!!」
左軍や右軍より多くの兵力を擁する中軍だったが中軍の将・周良は今のところ一兵も動かしていない。
「聶玄と石鮮は判断を誤ったのだ。今我らが動いたとて結果は同じよ。聶玄は功を焦りすぎたのだ。大陵などさっさ引き払って晋陽に行けば良かったのだ」
周良も猛将タイプではあったが向こう見ずな性格ではない。その為この状況が不利であることは最初から分かっていた。
更に言うと大陵に到着する前から大規模かつ広範囲の斥候を行わせており、漢軍の規模を最も正確に把握していた唯一の軍勢でもあった。
「周良様!! お逃げなされませ。石鮮殿の軍を押していた敵中軍が迫りつつあります」
「将軍!! 将軍!! 汾水にいた聶玄の軍勢が晋陽方面に撤退しました」
総大将の聶玄が逃げた.........この報を聞いた周良は“これ以上の戦は無駄”と判断して全軍撤退の指示を出した。幸い漢軍が追撃してくることはなく周良軍と石鮮軍は大陵に逃げ延びた。




