第8話 大陵の戦い
304年12月 太原国・大陵――――――
雪が降る厳寒の中、聶玄率いる晋軍2万と劉宏率いる漢軍3万は大陵の地で激突した。
大陵近郊に進出した漢軍は軍勢を3つの手勢に分けた。中軍を劉宏が、右軍を劉景が、左軍を劉欽がそれぞれ兵1万の指揮を執る。
対する晋軍は右軍5千を聶玄が、左軍5千を石鮮が、中軍1万を周良が指揮を執る。
先に動いたのは漢軍の右軍である。右軍を指揮する劉景は齢23と年若く血気盛んな将軍であった。
劉景は劉曜と同じく劉淵の族子であったが当の本人はそのような自覚は無かった。
自ら馬に乗り大矛を手にして軍の先頭で猛虎の如く暴れ回る.........これが彼の戦闘スタイルであった。
この戦いでも劉景は先鋒3千を率いると晋の右軍に突っ込んでいった。
「晋兵を片っ端から血祭りに上げろォ!! 我らには漢の御旗がある!! 臆することなく戦えェ!!!!」
「「「「劉景様に続けぇェェェェェ!!!」」」」
大矛を振るう度に敵兵の首やら腕が宙を舞い、血吹雪が眼前に降り注ぐ。
美形の若大将が自分の身分などお構いなく最前線で血と泥に塗れながら戦っているのだ.........3千の漢兵のボルテージは最高潮に達した。
聶玄も晋兵を奮い立たせようと自ら剣を振るって戦うも士気はイマイチだった。
利で釣られた連中は命を落とす事を嫌う。対して晋を滅ぼすという大義によって集まった連中は大義を果たす為ならば命さえも投げ捨てる覚悟があるのだ。
押されに押された晋の右軍は壊滅を恐れて大陵から東の汾水にまで撤退した.......
汾水・聶玄軍――――――
開戦初日で出鼻を挫かれた聶玄は意気消沈していた。
(我が軍は敵の右軍を壊滅させてた上で本陣を側面から奇襲する手筈であったのに......どうしてこうなった?)
想定外に次ぐ想定外が重なったことで聶玄の作戦は破綻してしまったのだ。
「これ誰か!! 参軍を呼べ」
「御意」
策を練り直さなければ........そう思った聶玄は軍の頭脳を担当する参軍を呼び出した。
「お呼びでしょうか? 聶玄将軍」
「呼ばれたから来たのであろう そちに聞きたいことがある。敵の右軍を率いてる将についてだが.......何か知っておるか?」
「右軍の将は劉景という青二才ですよ 向こう見ずな性格で戦には向かないというのが前評判でしたが........まさか戦場に出てくるとは思いもしませんでした」
「この目で奴の戦いぶりを見ていたが敵ながら見事であった。かの楚の覇王を彷彿とさせるようであったぞ」
落ち込んでいた聶玄に笑顔が戻る。
「あの劉景の動きは敵味方の双方を狼狽させました。事実、胡軍は全く動いてませんからね。恐らく作戦外の行動だったのでしょうね」
「うむ 我らは中軍、左軍から大きく離れて孤立してしまった 本来であればこの状況は敵にとって又とない好機であろうに.......」
「ふふっ 将軍は命拾いしましたな。この後胡軍は残る中軍と左軍に猛攻を仕掛けるでしょうが........将軍はいかがなさいます? 晋陽に逃げるも良し、高みの見物を決め込むのも良し、どのみち戦うにしても士気も兵力も足りませぬ」
初戦で右軍5千の内、死者200余り、重軽傷者300以上の損害が出ていた。士気もガックリと落ち込んでいたことから継戦は不可能であった........




