第88話 宜陽と飛龍山
309年9月、劉聡が弘農郡の宜陽という地で大敗を喫した。
俺は宜陽の北にある黽池で武器や兵糧の管理を任されていたが、敗れたと訊いて敵の来襲を危惧、早々に都へ撤退した。
夏辺りから黄河や洛水、長江、漢水などで干ばつが起こっていて船を使わず徒歩で渡れていた。その為撤退も手間取る事がなく不幸中の幸いとなった。
「――――――ハェ~」
後から都に到着した劉聡の意識は遙か彼方に飛んでいた。まるで有り金を全て博打に突っ込んで溶かしたよな顔をしており、側近の靳準はそんな主の有様に失笑していた。
そして劉聡が敗退した同じ頃、東方でも晋軍相手に大敗した将軍がいた――――――
冀州・飛龍山――――――
「ふふふ、またしても王浚の走狗共にしてやられるとは............彼奴を捕らえた暁には四肢を馬の尾に繋いでバラバラにしてくれようぞ」
飛龍山の山中で石勒は王浚へ恨み言を吐いていた。
壷関から1万の兵力で王浚の勢力圏に攻め込んだ石勒は道中で兵を集めつつ進軍して常山に着く頃には10万余りとなっていた。
これに変な自信を憶えた石勒、全兵力で常山から北上させて飛龍山に侵攻させたのだが、結果は惨敗に終わった.............
「申し上げます!! 段務勿塵の軍勢が来襲 麓で桃豹、孔萇、田堪、支雄、王陽の各軍が防いではいるものの崩れるのは時間の問題かと.............ッ!!」
開戦と同時に鮮卑段部の強襲を受けた石勒軍は早々に壊滅、そして王浚の配下・祁弘が率いる晋軍の追撃を受けた石勒は飛龍山に逃げ込んでいたのだった。
「弟よ、ここはもう退くしか他ないであろう? 強情を張って山に逃げ込んだところで敵の勢いは止められぬぞ」
「確かに兄上の言われる通りではあるが..........儂らはこのままではずっと段部に負け続けることになる」
張㔨督 改め、石会は石勒に撤退を進言するも本人は首を横に振った。
「我らがやるべき事は段部に勝つことではござらん。段部を駒にしている王浚を滅ぼすことが目的ぞ そこを履き違えてはならん」
「.............そうであった、な」
頷いて納得しながらも目をつむり、獣のような鋭い八重歯を覗かせながら歯軋りする石勒ではあったが、遂に折れて全軍を黄河付近の都市・黎陽に退かせたのだった。




