第87話 旗と印綬
平陽・太極殿――――――
「かような時にこの書状を寄こしてくるとは流石は王弥だ。まったく自由で奔放な友だ 其方も奔放過ぎる主に苦労してよう」
漢帝・劉淵は曹嶷から受け取った王弥の書状を読みながらほくそ笑む。
「...............」
曹嶷は問いかけに答えることなく平伏していた。
この頃、劉聡は弘農郡で晋将・曹武と交戦しており、その戦況は絶え間なく平陽に届けられていた。
劉淵は太尉・劉宏から逐一報告を受けており、本来であれば曹嶷などと会っている時間もなかったのだ。
「曹嶷殿、返答はしばし待たれよ。だがこの書状にある通り、兵のことは早急に対処致す。此方から新兵2万を与える故、元いた2万を青州に帰してやるといい」
「御意」
劉淵は曹嶷を下がらせると邸と妓女を与えて厚遇した。
そして夜中になると皇太子・劉和を呼び出した。
「この件は其方に任せる。其方の判断で下すがよい」
「.............これは父上がやるべき事では?」
手渡された書状を見ながら劉和は眉をひそめる。
「我が子・裕は其方にとって弟。本来であれば、そこに兄弟の情というものが生まれるはず。だがわしの育て方が悪かったのか其方にはそのような情は一切無いと見受ける..............変な言い方ではあるが、その情を挟まず客観的に判断出来るのは兄弟の中で其方だけなのだ」
「――――――分かりました。此度の件は私が引き受けましょう 後日、廷臣と協議の上で判断致します」
劉和は静かに拱手すると劉淵の前から去った。
その後、劉和は呼延晏、劉欽、劉盛らと協議した。
そして野心家の王弥、底が知れぬ曹嶷に劉裕を預けるなど飢えた虎に肉を与える事と同義であるとして劉裕の青州行きを拒絶することに決まったのだった。
しかし拒絶するだけだと叛旗を翻す可能性もあることから、王弥を東莱公に任じて懐柔することも決められた。
後日、曹嶷は呼び出されて参内すると劉淵から “あるモノ“ が渡された。
「旗と印綬?」
訝しむ曹嶷に劉淵はこういう。
「青州には未だ苟晞・苟純がおりその勢力は強大。父として子をそのような死地に送り込むことは出来ぬ。そこでだ、其方らに「斉の旗」と「印綬」を授ける。あくまでも斉王・裕の代理として青州を平定せよ」
「では青州を平定した暁には...........」
「それは其方らの器量次第というもの。我が友を悪くいうのは気が引けるが、王弥は少々勝手が過ぎる上に諸将からの評判も良くない..............今のまま我が子を授けたとしても王弥の為にも其方の為にもならぬ 兎に角、今は我が子を預けられぬ」
「承知致しました。主にはそう伝えます」
大した手土産も得られず曹嶷はそのまま壷関にいる王弥の元に帰るとその事を伝えた。
しかし旗と印綬のことは秘した...............
(あの漢帝の様子じゃ、御子を青州に赴任させる気はないかも。それでも私の手元には「斉の旗」と「印綬」がある...........そして私は ”斉王の代理” つまり捉え方次第で私はこの先 “斉王“ になれるかもしれないのか フハハハ――――――)
曹嶷はそう目論見み、密かに自立の方向を模索し始めるのだった。




