第86話 曹嶷の献策
劉聡・劉曜・靳準はそれぞれの手勢を率いて夜半の内に壷関から出撃していった。
そして壷関に取り残された王弥と石勒は城壁の上から各々出陣していく様を見下ろしていた。
「さ~て、オレらはどうする? このまま壷関でお留守番してるか、それともどっか攻め取るか」
「.............儂は幽州に行く」
それだけ言い残すと石勒も手勢を率いて東門から出陣していった。
「ちっ! 連れねぇな.............あの胡族のガキ まあ幽州の敵を1人で抑え込んでくれるってならいいか」
そういって王弥は石畳の上に転がって居眠りを始めるのだった。
そしてどれだけ眠っていたのだろうか目を覚ますと傍に曹嶷が控えていた。
「――――――ん 曹嶷か、どうした?」
「劉琨が都尉の張倚を新たな上党太守に任じられたそうだ。既に壷関北西にある襄垣に入ったらしい」
「ふぁァ~あ 安心しろ、攻めては来ねぇよ 晋陽を守る為の備えにすぎん」
王弥は起き上がると欠伸しながらそういう。
「............王弥よ 1つ訊くが貴殿はこのまま壷関に留まるつもりか?」
「留まると言ったらどうする?」
「青州から連れてきた2万もの精兵が貴殿の首を取ることになる。貴殿は本来であれば故郷の東莱や青州に留まり、その地で覇を唱えるべきだった。それが何を勘違い致したのか、私情から漢帝に入れ込み、故郷が晋将によって侵されているにも関わらず何もしない.............これはどういう事か」
「今更、青州に帰れるとでも思うのか?」
「兵達は既に望郷の念に駆られてヤル気を無くしてる。長平で彼らが動かなかったのは貴殿の行動に不信感を抱いていたからだ............それでも帰らないのであれば貴殿をここで殺し、この曹嶷が兵を率いる」
曹嶷の脅しに王弥は豹の如き瞳で睨む。曹嶷は腰に佩いていた長剣に手をかけるも、王弥の覇気に怖じ気づいてプルプルと震えだす。
「ふふふ フハハハ!! 負けたわい オレの負けだ。青州へ戻ることにしよう」
仔犬のように震える曹嶷に王弥は口を開けて豪快に笑ってみせた。
ホッと安堵した曹嶷は改めて王弥と向き合うと彼に献策を授ける。
「王弥、青州へ帰るなら漢帝の御子を伴った方が良い。漢帝の御子に劉裕という人物がいるのだが、5月に斉王に封じられてる。青州は春秋でいう斉の地 漢帝には “我ら2将が劉裕を命懸けで御守りします“ と願いでるのです。親友たる王弥がそう申せば漢帝も拒否は出来ますまい」
「曹嶷 よくぞ申した!! 斉王を伴って故郷に帰れば民の今までの苦難も吹き飛び、賊も平伏せよう そうと決まれば早速、元海に書状をしたためなければならぬな」
その後、王弥は上機嫌で書状をしたためると曹嶷を都・平陽に遣わした。




