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第85話 保身の為に

 劉聡(りゅうそう)王弥(おうび)石勒(せきろく)を左右の将から外すと遊軍の将に据えた。そして新たに劉曜(りゅうよう)を右軍の将、靳準(きんじゅん)を左軍の将として軍の再編を行った。


 そして長平(ちょうへい)を北上して屯留(とんりゅう)長子(ちょうし)を包囲するとこれを攻め落とした。


 この戦において王弥・石勒は汚名返上すべく容赦ない猛攻を仕掛けてあっという間に陥落させて、1万9千余りの首級が本陣の前に点々と積み上げられた。


 この惨状を訊いてすっかり戦意を喪失した上党(じょうとう)太守(たいしゅ)龐淳(ほうじゅん)は劉聡に降伏すると共に壷関(こかん)を明け渡したのだった。



309年8月 壷関・朝堂――――――


楚王(そおう)は諸将を率いて長平において王曠(おうこう)を破り、屯留・長子の2城を抜いた。そして戦わずして壷関を得たことは賞賛に値する。よって此度の功績を鑑みて楚王に洛陽(らくよう)攻略を命ずる」


 都から来た勅使は詔を読み終えると恭しく跪く劉聡に詔書を手渡した。

 劉聡は子供のように大喜びして勅使を歓待すると珍宝を持たせて都へ帰した。


そして側近の靳準を呼び出した。


「お呼びでございますか楚王様」


「あぁ .............父上から洛陽を攻めよと命じられた」


「おめでとうございます」


ニッコリと微笑む靳準を劉聡は睨みつける。


「なにが目出度い? ボクは災厄を押し付けられたのだぞ」


「災厄? これは可笑しなことを仰る。洛陽を落とせば楚王様がこの戦の功労者になられるのです。これのなにが災厄なのでしょうか?」


「仮に洛陽を落として殊勲者になった場合、ボクは宮中に身の置きどころをなくすやもしれぬ.............」


靳準は理解出来ずに小首を傾げる。


「恐れ入りながら楚王様の仰ること..............小人の私には理解しかねます」


「功を立てれば立てるほど、兄上らから睨まれるのは明々白々。特に病弱で疑心まみれの梁王(りょうおう)(劉和(りゅうか))はボクを殺しにかかるだろう」


「私は常に楚王様のお側におります故、梁王の気性を存じませぬ。一体どのようなお方で?」


「気性難を極めたような兄さ。誰にも心を開かず、唯一信頼してるのは叔父の呼延攸(こえんゆう)のみ、といっても本当に信頼してるかは分からないけど............そうそう靳準は何故ボクと玄門(げんもん)(劉恭(りゅうきょう)の字)の兄上が代わる代わる梁王の看病をしてるか知ってるかい」


「.................」


「一度、宦官に任せたことがあったんだが、薬湯を持ってきた宦官を “自分を毒殺しに来た刺客“ と疑って剣を抜いて殺してしまった事があった。それ以来ボクや玄門、または父上が看病することになったのさ つまり兄上から疑われるってのは “死“ を意味するんだ」


そういうと劉聡は傍にあった飲みかけの酒が入った爵を持つと中身を飲み干した。


「...........ならばこの洛陽攻略、成功させては楚王様のお命に関わりますな」


靳準は酒壺を持つと空になった爵に酒を注ぎ入れる。



そして劉聡に近づくと耳元でソッと囁いた。



――――――ならば失敗なさいませ と............

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