第84話 漢の今、漢の未来
長平に取り残された晋兵は俺が率いる軍勢と、ずっと山に潜んでいた王弥と石勒の軍勢によって掃討された。
そして火焔によって逃げ場をなくしていた劉聡と側近の靳準を助け出すと本陣を山腹から麓に移した。
劉聡軍・本陣――――――
「なぜ永明がここに居るのだ? 君は都で謹慎中だったはずじゃ...........」
「8万の兵を率いて上党攻めに加勢せよって父上から命があったのさ。それで来てみれば兄上が死にかけてたって訳」
「誰が死にかけだコラ ったくあんなに楽に勝たれちゃ苦戦してたボクの立場がないじゃないか.............」
本陣で一息ついた俺は劉聡と茶を飲んでいた。いつもは酒を酌み交わすところだが、流石に戦場で泥酔する訳にはいかず、酒の代わりに茶を飲んでいた。
「兄上こそ、どんな戦略を考えてたんだよ。数こそ多かったが結局は烏合の衆だった。側面を突けば勝つのは容易だったはず」
「ボクもそう思ったから王弥と石勒に機を見て敵の両側面を突けと命じたんだが、彼奴らは動かなかった。そんであーだこーだしてる内に麓の砦が落とされたんで山中に逃げたのさ」
(やはり動かなかったのか................)
父上が俺に命じたことは2つ、1つ目は上党攻略の増援。2つ目は王弥・石勒は劉聡の命に従わない可能性があるから、その際の劉聡へのフォローであった。
――――――まあ早速お役に立てて嬉しいが.............
「んで、動かなかった戦犯は今何処にいるんだ?」
「王弥は山の北西、石勒は山の北東にいるさ」
「うむ、分かった」
カチャ
俺は爵を置いて神剣を腰に佩くとスッと立ち上がる。
「な、何をするつもりだ?」
劉聡は俺に怪訝な目を向けてくる。
「精兵を以て奴らの陣を襲う。兄上を見捨てた罪は万死に値するからな それに、あんな味方がいては背後が危うくなる」
「落ち着け永明 味方同士で殺し合ってどうするんだ」
「.................」
「王弥は父上の親友にして洛陽を攻めた経験がある将で、石勒は東方における胡族や盗賊らの顔役だ。これを殺したらどうなるか............分かるだろう? “漢の未来“ を考えるならばここで殺せばいい。でも “漢の今“ を考えるならば、生かしておく方が得だとは思わないか?」
おちゃらけていた態度を一変させて眉をひそめる劉聡。普段が普段だけにこういうモードになると途端に冷徹さが垣間見える。
(今は晋を滅ぼす為に必要ってことか............)
「生憎、酒がなくて酔えぬが 今は勝利という酒に酔おうじゃないか」
劉聡は俺の置いた爵を手に取ると手渡してくる。その表情はいつも通りに戻っていた。
そして翌日になると王弥・石勒が謝罪してきた..........といっても本人が陣に来たというわけではなく、王弥は曹嶷を石勒は張賓を遣わしてきた。
石勒側の言い分は “北の麓にも敵の散兵がおり動けなかった“ 王弥側の言い分は “昨夜飲んだ水があたり体調が芳しくなかった“ というものであった。
俺にはどれも取って付けたような言い訳にしか聞こえなかったが劉聡はこれを許した。




