第82話 長平の戦い 中篇
強風が吹き荒れ、砂塵が巻き上がる長平にて漢軍5万と晋軍20万が衝突した。
「皆の者!! あれが賊の本陣ぞォ」
「「うぉォォォォォォ!!!」」
中軍を率いる王曠は一直線に山の麓に陣を置いていた劉聡軍に襲いかかった。
戟や槍、盾を手にした重装歩兵が横一列に並んで突撃を敢行、柵の付近で漢兵と激しい死闘を繰り広げる。
(アハハ まんまと引っかかりやがったか)
劉聡軍は突貫工事で造られた簡素な砦に篭もり、劉聡自身は敵情を山の上から眺めていた。
山にはこれ見よがしに「劉」「楚」「漢」の牙旗、「車騎大将軍」の幟旗が無数に掲げられ、誰が見ても本陣だと判るようにしていた。
そしてその効果あってか開戦と同時に入れ食い状態になっていた............
「楚王様、いくら敵が烏合の衆と云えども大軍にございます。対して此方は寡兵、矢も限りがございます故、機を見て早々に狼煙を上げなされ」
「うむ。それは理解してる」
靳準の言葉に頷くも劉聡は焦燥感に駆られていた。
この戦で鍵となるのは王弥と石勒だが、2人ともホイホイ人の命令を聞くような性格ではない。
あくまで彼らは同盟者であって臣下ではない――――――だから戦場で不利となった場合、軍を動かさないか離脱する可能性が大きかった。
(敵よりボクらの方が烏合の衆なんだよなァ こんな事なら頼りになる親族1人くらい連れてくれば良かったな ハァ――――――)
幸いにも初日は柵の前での一進一退で終わった。晋軍も小手調べといった感じで、実際に柵の内側に攻め入ろうする気配はなかった。
しかし2日目に入ると状況は一変、施融と曹超が左右の軍を投入して落としにかかってきたのだ。
幾つもの梯団に分けられた軍勢は代わる代わる攻撃し続け、劉聡軍2万を大いに疲弊させた。
予想を上回る損害を受けた劉聡ではあったが態勢を維持しつつ本陣を麓から山腹に移した後も徹底抗戦していた。
石勒軍――――――
カッ カッ カッ カッ!!
「申し上げます!! 楚王の本陣から火の手が上がりました。 “楚王曰く、前鋒都督(石勒)は征東大将軍(王弥)と共に敵の側面を突くべし 事態は急を要する“ とのこと 直ちにご出馬を願いまする」
劉聡の使いは下馬することなく馬上から口上を告げるとさっさと引き返していった。
石勒はこの時、劉聡軍の後方、山の東麓に本陣を置いて静かに戦況を見守っていた。
「張賓、征東大将軍の動きはどうだ?」
「今のところ動きはないみたいですねぇ 開戦当初は士気も高かったみたいですが、今ではすっかり消沈しているようですし」
古の大軍師・張良を彷彿とさせる美形に甘い香の匂いを漂わせる張賓は長剣を指の腹で撫でながらそういう。
「征東大将軍が動かないのであれば、儂らが動いたとて無駄死にするだけのこと。張賓、儂はここに留まることにする 劉聡の若造には後で適当な言い訳でもしておこう」
「それが宜しいかと。将軍は先月、鉅鹿・常山にて10万の精兵と多くの賢者を得られました。それをかようなつまらぬ戦で損耗させては、将軍の進退に関わります..............幽州に大敵がいる以上ここは出来るだけ兵を温存するのが得策です」
「...........王浚のことか」
「はい」
現状、石勒が東で勢力を広げる上で一番の障害となる相手が幽州の暴将こと王浚であった。
――――――そして石勒は沈黙を決め込んだ。
また王弥も “体調が優れぬ“ という理由で攻撃を拒否してしまった。




