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第81話 長平の戦い 前篇

「敵は大軍と云えども各地から寄せ集めた残兵だ。ボクが敵をこの本陣に引きつける故、諸将は敵の側面を突いて分断せよ この策を以て長平(ちょうへい)の再現といこうじゃないか!!」


 いつもは口を開けば “女ァ! 酒ェ!“ と王としても将としても失格レベルな劉聡(りゅうそう)ではあったが、この時ばかりは兄2人(劉和(りゅうか)劉恭(りゅうきょう))の名代としてある程度はマシに仕事をこなしていた。



というのも――――――



 黄粛(こうしゅく)&韓述(かんじゅつ)を血祭りに挙げた漢軍は壷関(こかん)を包囲せんと間道を進軍していたが、斥候から壷関の南西から大軍が此方に向かっているという報せを受けていたのだった。


 劉聡(りゅうそう)は進軍を急遽停止して大軍を迎撃する為に長平に布陣していたのだ。



――――――そして現れたのは20万を擁する晋軍であった。

 


 司馬越(しばえつ)并州(へいしゅう)の晋軍では漢軍を抑えられないとみて、淮水(わいすい)の近隣から兵を集めて淮南(わいなん)内史(ないし)王曠(おうこう)(書聖・王羲之(おうぎし)の父親)を総大将に、施融(しゆう)曹超(そうちょう)を左右の将軍に任じて派遣してきたのだ。


これには劉聡も閉口して真面目になるしかなかった..............


 対する漢軍は5万余りと劣勢の状況の中、劉聡は2万の中軍を長平にあるちょっとした山の麓に布陣させ、王弥(おうび)に右軍2万を、石勒(せきろく)には左軍1万を与えて山の北側に陣取らせた。



王曠軍――――――


「だから申したではないか!! 黄河(こうが)を塁壁として賊を迎え撃つぺしと」


「内史よ、我らは将だ。戦の常道は我らのが理解しておる..........にも関わらず、戦の常道に疎い文官である貴殿が余計な口出しをしたせいでかような事態を招いたのだ」


施融と曹超は拳を握り締めながら王曠に詰め寄っていた。


 王曠は進軍中に幾度となく施融や曹超から “このまま上党の山中に入るのは危険、黄河を天然の堀として土塁を築き、敵の出方をみてから上党に入るべし“ と言われていたにも関わらず “士気が下がるから黙れ“ と進言を無視。


そして自ら地獄の門へと入っていったのだ。


「――――――ッ 我は琅邪王氏(ろうやおうし)の出なるぞ どこの出自かも判らぬような輩が意見を述べるなど勘違いも甚だしいわ!! 将であるならば、悲観に暮れずこの状況を打開してみせよ」


「くっ............ッ!!」


「......................」


 王曠の口ぶりに思わず腰に佩いていた長剣に手が伸びるも、ギリギリのところで耐えた両将は苛立ちながら陣幕を出ていった。



陣幕外――――――


「いやはや呆れてモノが言えんわ」


「名門とは云えども所詮は我らと同じ人間、それが地位や家門を盾にのさばりおって............ここで斬り殺せば不慮の事故ってことに出来るのだが」


陣幕を振り返り恨み節をいう2人であったが、名門の力の前には屈する他なかった............


「よりによって我らの死に場所が長平になろうとは...........戦国の(ちょう)は圧倒的な兵力を誇りながら劣勢なはずの(しん)に大敗したのだ。我らとて他人事とは思えぬ のう曹超」


「この地形じゃ、いつどこから敵の援兵が湧いて出てきても対応出来ぬな。施融将軍、我らは与えられた兵で最善を尽くすのみであるぞ」


「うむ」


その翌日、晋の大軍は長平の中心部に進出した。



 小高い丘や山、森が点在する地形は攻める側にとってはやりずらい、対して守る側は幾らでも手札がある。



それこそ伏兵という触手を以て獲物を嬲り殺しにするとか――――――

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