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第80話 苛立つ諸将

309年6月 上党郡(じょうとうぐん)壷関(こかん)――――――



「おのれェ 汝陰王(じょいんおう)の野郎、妙齢の美女を我がモノにするとはッ!! 今頃は(しとね)の中であの肢体をを好き勝手にしてる思うと―――ッ」



 楚王(そおう)劉聡(りゅうそう)は本陣で慟哭していた。

 軍議の後、王弥(おうび)から “劉景(りゅうけい)崔岳(さいがく)を娶った“ と訊かされた劉聡は目を見開き。諸将が去った後、地に伏して狂乱していたのだった。


「畏れ入りながら楚王様もその女人を好いていたので?」


 お目付け役として陣中に同行していた靳準(きんじゅん)は茶の入った爵を劉聡に差し出す。

 やけくそ気味に茶を飲み干した劉聡は爵を靳準に返すとコクリと頷いた。


「崔岳殿は確か龍驤(りゅうじょう)殿の大切な臣下でしたな 今の楚王様の言動、龍驤殿に聞かれでもしたら激怒されたでしょうな」


「..............それにしても何故、永明(えいめい)はあれ程の女を妻にせなんだ。案の定、汝陰王に取られてしまったではないか」


「崔岳殿は龍驤の恩人と云われております。恩人に対して楚王様のような邪な感情を向けては失礼に値すると感じたのでしょう」


「少しは欲に素直になっても良いものを..............高潔というか仁義にあついというか、只の馬鹿というべきか」


劉聡は苦笑いした。


 劉景が延津(えんしん)でしくじった事で東方からの洛陽(らくよう)攻めが振り出しに戻ってしまっていた。


 本来であれば汚名返上として先鋒を務めるぺきなのに、そんな状況下で当の劉景は出陣禁止令を良いことに都に篭もり女を娶って飽きもせず毎晩抱いている...............劉聡を始め諸将からの不満が出ないはずがなかった。


  幸い劉淵が諸将をなだめて今度は上党郡から攻める方針に変更、流石に劉淵相手に諸将は文句を言うことは出来ず、愚痴りながらも壷関周辺に展開していたのだ。



そしてその苛立ちを晋軍にぶつけた――――――



 漢軍の先鋒・石勒(せきろく)は壷関の南東で并州(へいしゅう)刺史(しし)劉琨(りゅうこん)が派遣してきた黄粛(こうしゅく)韓述(かんじゅつ)を大破。


 黄粛は石勒の将軍・桃豹(とうひょう)によって討たれ、これに動揺した韓述は北へ逃げようとしたが劉聡軍によって進路を阻まれて自害した。

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