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第79話 宮中襲撃

洛陽(らくよう)宮城(きゅうじょう)――――――


「おのれ太傅(たいふ)ぅ!! これはどういう事か説明せよ!! 我は陛下から信任厚き臣下ぞ かような真似が許されるはずがない」


 中書令(ちゅうしょれい)(勅書を起草する役職)・繆播(きゅうはん)は突如として捕らえられた。

 後ろ手に縛られながら喚く繆播であったが誰も彼のことを擁護せず、頼みの皇帝・司馬熾(しばし)も玉座の上で涙ぐみながら震えているだけであった..............


「昨年から陛下や私に対して謀反を起こそうと画策している輩が朝廷に潜んでいるという噂があったのだ。そして蓋を開けてみれば、まさか陛下に忠実な其方が謀反を企んでいようとは、まさに世も末というもの」


太傅・司馬越はそういうとわざとらしく嘆息した。


 司馬越は漢軍が平陽(へいよう)に遷都したという情報を耳にすると指揮系統の一本化を図る為に先ず、洛陽の朝廷を完全掌握することを決めた。

 

 そして滎陽(けいよう)から洛陽にいる王秉(おうへい)と連絡を取り、司馬越が洛陽に到着すると共に王秉は兵3千を率いて宮中に突撃、謀反の首謀者である繆播と尚書(しょうしょ)(上奏を取り扱う役職)の何綏(かすい)らを捕らえたのだ。


 これは皇帝の手足となっていた側近を丸々消し去り、自分の息のかかった廷臣を新たに据えようという司馬越の企みであった。


「..............そのようなやり方で天下が治まるとでも思うたら大間違い 却って敵を増やすだけだぞ太傅よ」


「ご忠告痛み入る」


司馬越は睨む繆播に対して拱手した。


(ようやく後顧の憂いは無くなった。あとは并州(へいしゅう)益州(えきしゅう)の胡族を滅ぼすのみ...........)


 漢軍が平陽を取ったことによって洛陽陥落が現実味を帯びてきた事、加齢によって病がちになっていた事によって焦りがより一層加速していた。


“私は晋朝の守護神、堕落した洛陽の廷臣らなんぞに頼らなくても同志と共に賊を滅ぼしてみせる“


 その為なら謀反もでっち上げて邪魔な廷臣を死に追いやる――――――彼は完全にダークサイドに堕ちていたのだった。



潘滔(はんとう)邸――――――


「我らが提言したとは云え、太傅殿もえげつない真似をなさる のう慶孫(けいそん)(劉輿(りゅうよ)の字)」


「フッ 陽仲(ようちゅう)(潘滔の字)殿も人のことは言えまい。まあそれを鵜呑みにして実行なさる太傅には畏れ入るが」


潘滔は劉輿を自邸に招き酒を酌み交わしていた。


 2人は “司馬越に三才あり、潘滔は大才・劉輿は長才・裴邈(はいばく)は清才“ と称された逸材であり、廷臣の中でも並外れた知恵者であった。


「愚かな廷臣共は皆、解任されて宮中から追い出された。フフッ、人様の絶望しきった表情を思い出しながら飲む酒は格別よ」


「そのような性格では碌な死に方をせんぞ慶孫よ」


「アハハ其方とて、かなり前に年端もいかぬ幼子に罵詈雑言を吐いたと聞き及ぶが?」


「アレは将来を見据えて忠告したまでのこと。悪意などないわ」


劉輿も潘滔も頭は良かったが性格は最悪そのものであった。


そして廷臣の処刑や追放を司馬越に提言したのも彼らであった。


 廷臣を処刑&追放したことでこれ以後、司馬越に対する世間からの評価は地に堕ちていくことになるのであった。

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