第76話 劉和の疑心
平陽――――――
「まったく汝陰王は何を考えおるのだ。民3万を殺戮して河に沈めるとはッ!! 朕が除こうとしてるのは司馬氏のみ 民に何の罪があるか!!」
延津で行われた凶行の数々を耳にした劉淵は大怒した。
そして平陽へ帰還した劉景を呼びつけると滅晋大将軍・大都督の位を剥奪、平虜将軍に降格させた。
そして何故かその劉景を俺が引き取ることになった.............
「龍驤殿、申し訳ないが平虜殿の面倒を見てやってくれないか?」
そう頼み込んできたのは大司馬・梁王の劉和であった。
因みに俺は劉聡とは頻繁に会ったり酒を酌み交わしたりして交流を深めているが、この劉和とは殆ど関わりがない。だからどんな奴かはサッパリ分からない。
「無闇に殺戮、略奪を働く輩を軍中に置いては俺の悪評が広まるというもの。頼むなら他の将を頼って下され」
即答するまでもない。
「龍驤殿 平虜殿はあのような方なれど、しっかり育て上げれば貴軍の中で最大の戦力となろう。悪くはない話だと思うが?」
「............軍中には既に劉雅・劉暉の衛将、劉綏・王忠の宿将、平先・曹恂の勇将と手足となる将軍は揃っております これ以上、配下が増えれば指揮に影響致します」
「私は全軍を司る大司馬、そして父帝の嫡子だ。この意味をお解りか龍驤殿?」
(ほぉ、脅しってか? 病弱って噂だったから意志も弱ぇかと思ってたが中々の強気だな)
劉淵を二回り若くしたらこうなんだろうなってほど面影がある。親子だから似るのは当たり前ではあるか..............1つ違うのは疑心によってドス黒く染まった光の無い瞳か
「これは失敬、大司馬・太子様の命とあらばその問題児を自軍にてお引き取り致しましょう」
「.............うむ。その言葉、違えるなよ」
劉和はそれだけ言い残すと拱手する俺を尻目に去っていった。
劉景を引き取らせたのは恐らく劉和の独断で、劉景に俺の脚を引っ張らせることで今後戦功を挙げさせまいとするものであった。
戦功がなければ劉淵からの評価も落ち、俺は劉氏の中で存在感を失う。それは宗室にとっても、いずれ帝位を継ぐ劉和にとっても安泰を意味する。
(俺には手出しさせない、と白馬の血を啜らせて誓わせたと訊くが、その誓いも劉淵が亡くなればゴミと化すのは明々白々だ..............)
劉淵が亡くなれば俺はどうなるか、分からない..........だから今のうちに生き残る策を考えなくてはならなかった。
そしてその第1歩が劉景を短期間で戦力化して手綱を握り、犬の如き忠誠を俺に誓わせることであった。




