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第65話 常山での敗戦

 年が明けた308年1月、劉淵(りゅうえん)は南に勢力を伸ばす為に東の抑えとして撫軍将軍(ぶぐんしょうぐん)劉聡(りゅうそう)に10人の将軍をつけて太行山脈(たいこうさんみゃく)に派遣した。


 石勒(せきろく)楽平(らくへい)で兵馬を整えると総勢1万を率いて(ちょう)()の地に展開して戦機を待っていた...............


 だが兗州(えんしゅう)には司馬越(しばえつ)青州(せいしゅう)には苟晞(こうき)がガッチリ固めており南や東への伸長は不可能に近かった。


 魏・趙の地に留まっていてもジリ貧になるだけ、そう判断した石勒は北に勢力を広げるべく翌月には常山(じょうざん)に攻め込んだ。



常山郡――――――


 常山と云えば季漢(きかん)の英雄・趙子竜(ちょうりょう)で知られる地だ。

 各地が破壊と殺戮の嵐に見舞われる中、英雄を生んだこの地もまた戦乱に巻き込まれていた................


「申し上げますッ!! 桃豹(とうひょう)将軍、孔萇(こうちょう)将軍による攻撃は全て失敗し先鋒は壊滅状態に!!」


「王様、両翼が敵の奇襲を受けて混乱中!! 支雄(しゆう)将軍、夔安(きあん)将軍は兵をまとめて後退してるとのこと!! 田堪(でんかん)将軍は別動隊を率いて敵本陣を強攻しておりますが戦局は芳しくなく、間もなく敗走するかと思われます」


石勒は次々ともたらされる苦戦の報せに目を細めた。


「...............おのれ王浚(おうしゅん)の犬如きにやられるとはッ!!」


常山の平野部に布陣していた石勒軍はかつてない大軍に襲われていた。


 王浚の娘をもらい朝廷から遼西公(りょうせいこう)に封じられた鮮卑段部(せんぴだんぶ)の首領・段務勿塵(だんむもちじん)とその子・段文鴦(だんぶんおう)が、王浚の命を受けて10万の大軍を率いて漢軍討伐に乗り出してきたのだ。



そして漢将最初の犠牲者として河北により近かった石勒が狙われたのだった――――――



 最強と名高い鮮卑族を相手に石勒軍は初撃で終わらせるべく自軍の最強戦力である桃豹と孔萇を投入するも通用せず、包囲されかけた両将は命からがら敵中突破して北へ逃亡。

 そして石勒の本陣も鮮卑の軽騎に側面をつかれて壊走。石勒は王陽(おうよう)や支雄、夔安と共に上党(じょうとう)に逃げ帰ることになった................



上党郡――――――


カッカッ カッカッ!!


安全圏までひたすら馬に鞭を打ち続けて上党に逃れた石勒を馬上から背後を振り返る。


「支雄!! 十八騎はお前達だけか!?」


「あぁ 桃豹と孔萇は北へ、田堪らは南へ逃れたが他の者は行方知れずだ」


「................す、すまねぇお頭ッ」


支雄、王陽、夔安は血塗れになりヘロヘロの状態でいつ落馬してもおかしくはない状態になっていた。

 山中に入った石勒は負傷した3人を休ませる為に薪を集めて焚き火を起こした。そして適当な野草で(あつもの)をつくると3人に振る舞った。


「主君を守れず、逆に支えられては十八騎失格だな.............アハハ」


王陽は羹を啜ると自虐的な笑みを浮かべた。


「そう気落ちするな王陽殿、我ら元は盗賊だ。そして此度の敵は百戦錬磨の鮮卑の傭兵だ。敵う筈がない」


「それにしても太行のお山に陣取ってる若造はいつ動くんだか.............此方に兵を寄こしてくれれば奴らになんぞ負けはしなかったのにッ!! まさか怖じ気づいたんじゃないのか? のうお頭!!」


「よせ夔安、仮にも儂らの総大将だ。今彼らに見捨てられれば儂らは敗亡の道を歩むことになる」


褐色の肌を紅潮させながら愚痴る夔安を嗜める石勒だったが、彼もまた夔安と同様の気持ちを抱いていた。


(劉聡はかねてより放蕩癖の酷い人物............陣中に篭もってるのも恐らく遊んでる可能性が.............)

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