第64話 石氏昌
息子の屍肉を喰わされて憔悴しきった張伏利度は石勒に連れられて劉淵に拝謁した。
今まで親書を送って招こうとしても一向に来なかった張伏利度が数千の私兵と共に投降してきたのだ。劉淵は大いに喜び宴を催して労をねぎらうと宝物と王位を与えた。
しかし病がちになり生きる気力すら失っていた張伏利度は数日の内にこの世を去ることになった。
率いていた彼の私兵数千がそっくりそのまま石勒の配下に入ったことから、巷では石勒が謀殺したのでは? という噂が広まった.............
楽平の諸胡を味方に引き入れて強力な一勢力となった石勒は張伏利度を投降させた功績によって都督山東征討諸軍事という役職に任じられた。難しい役職名だがつまり “東はお前に任せた“ という意味である。
そして12月、石勒の恩人である汲桑が死んだ――――――
「我が君、心中お察しします」
変事を聞きつけた王陽は主の心配をしてわざわざ楽平から黎亭にある石勒の邸に来ていた。
石勒の元にも報せは届いていたようで、彼は剣を床に置き項垂れていた。
「王陽か...............あ、兄上が楽陵で討たれた。儂は生き残りたいが為に土壇場で兄上を裏切った 兄上は死に際に儂をさぞ恨んであろう うぅ............ワァァァァァァァァ」
自責の念に駆られた石勒は赤子の如く泣き声を上げた。
王陽はどうすることも出来ず、そっと主の背中を擦る。
「................その剣は汲桑殿が日頃持っていたもの それを主に渡されたということは恨んではおりますまい 寧ろ激励と捉えるのが正しいかと思います」
「げ、激励だと?」
「“道は違えたが、永久に我らは兄弟である“ この言葉をお忘れでございますか? 剣を我が君に渡したということは “果たせなかった我の夢を叶えてくれ“ という意味でございましょう」
その言葉に石勒はスッと立ち上がると袖で涙を拭った。
「そうだな 兄上には功名を成すという夢があった..............こうしてはおれぬ 儂が兄上の分まで生きねば。王陽、儂のこの剣と兄上の剣を溶かして一振りの剣を鋳造してくれ」
(兄上、天から見ていて下され。儂はいつの日か大きく羽ばたき、正史に名を刻む英雄となろう)
石勒は決意すると2本の剣を王陽に託した。
「御意」
間もなく二尺三寸の剣が完成した。石勒はその剣に石氏の繁栄を込めて「石氏昌」と名付けて腰に帯びた。




