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第63話 張伏利度

 石勒(せきろく)張伏利度(ちょうふりど)に降ると速攻で鳥垣(うがん)を始めとする諸部族と共謀して張伏利度を捕縛してしまった。


 いとも簡単に張伏利度を捕らえられたことに石勒自身が大いに驚いていた。


「張伏利度、何故貴様が捕らえられているか分かるか?」


 異界のオークさながらの巨体を荒縄で縛られた張伏利度は、剣を手にした石勒の前に跪かされていた。


劉淵(りゅうえん)から逃げてきたというから匿ってやったのに、恩を仇で返すとは..........ッ!!」


「張伏利度よ、儂は貴殿から受けた恩を忘れた訳ではない。然れど貴殿は仲間であるはずの諸胡から恨みを買いすぎたのだ。その結果が今日だ...........儂とてこのような真似はしとうなかった」


怒る張伏利度に石勒は白々しくそういう。


 そもそもこの張伏利度という男は変節漢で一昨日は劉淵からの親書を受け取りながら、今日は幽州(ゆうしゅう)にいる王浚(おうしゅん)と誼を通じたりしていたのだ。


 そして諸部族の連中がこの男に従っているのは、あくまでも食糧にありつけるからである。しかもその食糧さえも王浚に送ってしまう有様で部族内の食糧は底をつきかけていた...........


「胡族共の主は何が不満で叛くのだ!! 貴様らには良き待遇を与えてやったはずだぞ」


自覚なしに吠えまくる張伏利度に1人の胡人が進みでるや彼の胸ぐらを掴む。



「貴重な部内の食いもんを横流しにしたのはテメェだろう!! そのお陰で我が子は飢え死にしたッ!!」


その言葉に張伏利度は色をなくす。



「..........ッ!! お、王浚殿は食糧を送ってくれば部内の安全を保証するっていってくれたんだ............ま、万が一敵に攻められても王浚殿が守って下さると...........」


「部内の安全だァ!? テメェの身の安全だろうが!!」



ドカッ! バゴッ! グシャ!!



 馬乗りになって顔面を殴り続ける胡人に他の者は止めることなく見守る。

 鼻と頬骨がひしゃげ、顔面が血塗れになってからようやく石勒が止めに入った。


「張伏利度、漢の劉淵は度量が広く大志を抱かれている。そのことは并州(へいしゅう)に住まう胡族なら誰しもが知っていること.............対して王浚は浅慮にして殺戮を好む。これを知っていながら何故王浚につこうとする?」


「............う、うぅ 今の漢はし、晋に勝てないから、だ ハァハァ」


「なんだと?」


「お、王浚殿は鮮卑(せんぴ)や鳥垣の軽騎を取り込んでる.........こ、これにか、勝てる者など.............いるわけがない。だ、だが漢を無視するわけにもいかない。だから親書は受け取るだけ受け取って無視してた――――――ッ」


ガタガタと震えながら語る張伏利度に石勒は絶対零度の眼差しを向ける。


「儂がこの部内の長ならば、かような真似は致さぬ。王浚に忠を尽くしたとて見返りは貰えぬだろう。ご主人様の機嫌がいい時はお零れもくれるだろうが、些細なことで勘気に触れれば部族こど滅ぼされる............」


「.................」


もはや抵抗する意思はない そう判断した石勒は騒ぎを聞きつけてやって来た部内の民の方を向く。



「皆の者よく訊けェ!! お前達の首領・張伏利度は晋の暴将と名高い王浚に投降しようと画策していた。もし王浚に投降すれば部内の若い女は死ぬまで手籠めにされ、男は死ぬまで奴隷として働かされるだろう!! 部内の安寧を第一とするならば張伏利度のような変節漢より儂が首領となった方がよかろう!!」



石勒の問いかけに一同は首を縦に振る。


そして先ほど張伏利度をボッコボッコに殴っていた胡人と長老3人が石勒の前に跪く。


「我らは首領の考えには深く憂慮しておりました。噂によれば首領の息子に王浚の娘をという話もあり、このままでは部内は王浚に好き勝手にされてしまうところでした.............将軍、我が部族は漢に投降致します」


「石勒殿、張伏利度とその息子は此方で始末して後ほど首級をお送り致します」


彼らの言葉に石勒は頷く。


「張伏利度がここまで晋に加担する理由は息子にあるか...........ならば息子を斬り、その屍肉を親である張伏利度に喰わせるのだ。自分の部族を滅ぼしかけた優柔不断な奴にとって良き薬となろう」


「「御意」」


 張伏利度の息子は直ぐさま捕らえられると恨みが頂点に達した胡人の手によって膾切りの利き目に遭い、その屍肉は大鍋で煮込まれて張伏利度の胃袋に収まったのだった............

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