第60話 楽平へ敗走
石勒軍と苟晞軍は7月から8月にかけて大小合わせて30もの激戦を繰り広げていた。
しかし両者が決定打に至ることはなかった..............何故か? それは石勒軍が丘陵に本陣を置いていたからである。
丘陵の周囲は柵と深い壕で囲まれ2万の新兵がガッチリと守りを固めていた。
晋軍が丘陵を攻めれば四方から湧いて出てきた軽騎兵によって背後や側面を奇襲されて丘陵どころではなくなる...............鬱陶しい軽騎兵を殲滅しようとすれば今度は丘陵から打って出てきた兵に背後をやられる。
――――――日に日に増えていく損害に苟晞はついに丘陵攻めを止めて自陣に引き篭もったのだ。
石勒軍――――――
「アハハ、奴等ついに諦めやがったぜ 亀のように引き篭もってやんの」
「お頭ァ!! 次は我らがやってやりましょうよ」
陣営に戻ってきた桃豹と支雄は石勒にそう進言するも彼は首を横に振る。
「儂らが隙を見せた瞬間襲ってこよう。2万は戦に不慣れな新兵だということを忘れるな」
「それじゃ、何も出来ねぇよ.............このまま敵が諦めて後退すんのを待つのかよ?」
桃豹が拳を握り締める。
「桃豹、儂の目的は生きて故郷に戻ることだ。目の前の敵を壊滅させて功やら名を挙げようだなんて考えてないんだ。とにかく今は敵に嫌がらせをして諦めさせることが重要なんだ。まあ早いとこ田堪が退路を見つけてくれれば済む話ではあるんだが.................」
そんな話をしていると配下の王陽が陣中に入ってくる。
「我が君、一大事だ!! 黎陽が落とされた 兵糧は焼かれて守備兵は離散したとのことだ.............さらに官渡に司馬越率いる主力軍が到着したって話だ。これが事実であれば我が軍の勝ち目はない」
切羽詰まった状況を聞かせられた石勒は蒼い瞳を伏せた。
長らく盗賊稼業で信頼や統率、技量を鍛え上げた石勒の軍とは違い、食糧や珍宝を目当てに集まった兄上の軍では勝ち目はない.............瞬時にそう感じとっていた。
「そうか儂らが苟晞と戦ってる間にそんな事が...............司馬越の主力とあらば大軍であろう」
「大将軍は既に陽武や延津の陣を捨てて敗走したって噂だ。生死の程は判らんが..............」
陣中に沈黙が訪れる。誰もが口を開けていて状況が飲み込めていないようだった。
「儂らもそろそろ潮時か............王陽、儂はどう為べきか?」
「この際、兵を棄て夜陰に乗じて逃げるが上策!! とにかく北へ逃れるのです」
「うむ」
王陽の云うとおり夜中に石勒と18人の仲間は軍中を抜け出した。
それぞれ馬を駆りひたすら北を目指して逃亡し、遂に上党の北部に位置する楽平という地に到達した。
因みに取り残された2万8千は苟晞軍の猛攻を防ぐことが出来ずに壊滅。半数近くが逃亡して残り半数は捕虜となり、生き埋めとなった。
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