第58話 餞別
延津――――――
「そうか、石勒が..............いや㔨が我の元から離れると言ったか」
石勒が寄こしてきた使者から事情を聞いた汲桑は静かに頷いた。
使者は斬り殺されるのではと怯えていたが意外にも落ち着いた態度に驚いていた。
「これは主からの大将軍への贈り物にございます...............」
そういって使者は従者に盆を持ってこさせた。
盆の上には玉で飾られた爵や斗、酒壺が載っていた。
「これは?」
「大将軍は部類の酒好き、これは上等の美酒にございます。薬酒ではございますが、“兄上にはいつまでも健やかにいてもらいたい“ という主からのお気持ちにございます」
使者の言葉に汲桑はニヤリと笑う。
「健やかにか.............㔨にしてはらしくない言い草だな。まあそんなことはどうでもいいか。それよりお前達はこれからどうするんだ? 兵も兵糧も人材も我が軍より少ないだろ?」
「はい ゆえに今は陣営を白馬から黎陽に移して兵糧と兵を集めております。主曰く兵馬が整い次第、帰郷するとのことです」
「そうか 使者よ、㔨にこう伝えといてくれ 我らは縁あって義兄弟の契りを結んだ。だが我は功を挙げて名を残すことを望み、お前は生き残ることを望んだ............道は違えたが我らは永遠に兄弟だ。この先お互い勢力がデカくなって隣接することもあるだろう。その時はお互い干戈を交えず、助け合おうとな――――――」
「御意」
その夜、汲桑は使者を盛大にもてなすと兵糧を載せた荷馬車1台を贈り、石勒の元に帰したのだった。
そして1人になった汲桑はこう呟いた。
――――――あばよ、兄弟。我は先に逝くぜ




