第55話 司馬騰の最期
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司州・魏郡――――――
大将軍を自称した汲桑は公師藩の残党を吸収すると冀州各地を略奪して回り、武器兵糧が充実してくると今度は魏郡に攻め入った。
「主君の仇である騰と越を討ち取り天下に名を轟かせようじゃないか!!」
――――――挙兵するにあたり汲桑が掲げた大義名分であった。
汲桑は自身の兵3万と公師藩の残兵2万を率いると魏郡の中央たる長楽に進駐していた。
「石勒!! お前に朗報だ 鄴に司馬騰がいるみたいだ」
「な、なに それは本当か?」
「捕らえた官吏を拷問していたところ吐いたんだ!! 兵糧の在りかを聞いていたところ官吏が口を滑らしてな あの豚、今は都督鄴城諸軍事になって鄴にいるらしい つまり晋陽を捨てて逃げてきたって訳だ」
刃向かってきた馮嵩の軍勢を敗走させた後、その晋兵の屍体を積み上げて作られた京観を汲桑は見上げていた。
「............そうか ならば兄上、この儂を先鋒に命じてくれ 真っ先に鄴に乗り込んで豚の首を背骨ごとぶっこ抜いてやる」
「分かった この場でお前を前鋒都督に命ずる 万が一の為に後詰めとして李豊を連れていけ.........成功を祈ってるぜ相棒」
「うむ」
早朝、石勒は騎兵8千と李豊の歩兵1万を率いて鄴へと向かった。
魏郡・鄴――――――
無数の篝火が宮殿を照らし出す中、司馬騰はかつて司馬穎が座していた玉座に腰をかけていた。
「申し上げます!! 汲桑という賊が魏郡に侵入しております 太守の馮嵩が迎撃に出るも破られました!!」
「乞活共は何をしてるんだ!! こういう時の為に奴等の面倒を見てやってんのに、役立たずな連中め」
斥候から報告を受けた司馬騰は相も変わらず喚き散らしていた。
その場に居合わしていた重臣らは半ば呆れながら主の醜体を見守っている。
「我が君、恐れ入りながら乞活は既に我らを見限っております そもそもかような事態を招くに至った原因は我が君でございますぞ」
「なに!?」
配下の1人、閻粋は前に進み出てそう告げる。
「金の切れ目は縁の切れ目、金が底に尽きた今、誰も貴殿に付いていこうとする者はおりませぬぞ 金にものを言わせる政は脆いのです。だから過去の為政者は徳による政を目指したのです 私もこれで失礼致す お世話になりました」
そう言い残すと閻粋は部下を率いて朝堂から出ていってしまった。
「クッソ どいつもこいつも!! 我は北辺を守る王ぞ これまで幾度となく城を取り囲まれてきたが、連中は落とすことが出来ずに退いていくのが常であった...........それが此度は汲桑なる小賊如きにッ!!」
歯軋りする司馬騰ではあったが防戦するにしても将兵が離散してしまった今、汲桑軍と真面にやり合える筈がなく逃亡するしか他なかった............
そして――――――
「あれが司馬騰だ!! 討ち取れェ!!!」
司馬騰とその息子達が鄴郊外の小川を渡ろうとした瞬間、李豊と石勒の軍に追いつかれてしまった。
石勒軍は騎兵を展開させて司馬騰らの進路を塞ぎ、李豊軍は背後に回り込んで退路を断った。
そして石勒自身は馬上で弓に矢を番えて狙いを定めていた。
狙いは勿論、司馬騰ただ1人。
(奴隷として売り飛ばされた者らの怒り 思い知るがいい!!)
限界まで引き絞った弦を離すと矢は一直線に司馬騰の首を射貫く。
――――――何が起こったのか分からず激痛で馬上から転げ落ちる司馬騰。
「これで儂らの役目は終わった 者共!! 長楽に引き揚げるぞ!!」
血反吐を吐きながら悶え苦しむ司馬騰を尻目に石勒軍はさっさと撤退していく。
「ン“ ア“...........グェ“ アガ“.............ッ!!」
声にならない断末魔をあげながら痙攣する司馬騰に従者や息子らはどうすることも出来ずオロオロするばかりであった。
その後の顛末はグダグダそのものであった。
李豊軍が司馬騰の衛兵を追い散らすと李豊自身が馬上から槍を以て司馬騰にトドメを刺した。
しかし勝ち鬨をあげる間もなく李豊軍は突如として現れた新手の晋軍によって壊滅に追い込まれてしまう――――――そう壷関から長躯してきた司馬虞の軍勢500が油断しきっていた李豊軍の横腹を突いたのだ。
司馬虞は単騎で李豊に追いつくと体当たりして小川に落として殺すも多勢に無勢で司馬虞は兵に取り囲まれて討ち死にした。




