第54話 旅立ち
上党郡・壷関―――――
東谷関から敗走した司馬虞と簫叡は兵500と共に壷関に入っていた。
「そうか 父上が鄴に移られたか............それで代わりの刺史は誰か?」
「確か劉琨って奴だ。1年前だか2年前あたりに刺史に任じられて、実際に赴任するのは今年なんだとよ」
簫叡はそういうと床に寝転ぶ、対して司馬虞は上座に座り酒をちびちびと飲んでいた。
最初こそ司馬虞に謙っていた簫叡だったが、敗走して以降は素の言葉遣いで接するようになっていた。
司馬虞も簫叡の態度に何か言うでもなく、寧ろ夷狄の身でありながら敗走した自身を裏切らず、こうして一緒に行動を共にしてくれる事に内心感謝していた。
「劉輿の弟か............. 叛逆した趙王と姻戚関係にあったが中山靖王の末裔で人望もあったゆえ、運良く罪を赦された奴だ 教養豊かにして詩作を得意とするらしいが.........関わりがないゆえ詳しい人柄は分からぬな」
「教養に詩作ねぇ...........そんな奴に漢軍の相手がつとまるのか?」
「人望が高ければ本人の勇武など関係あるまい。事実、漢の高祖劉邦は人望と的確な人材登用で天下を制してる。劉琨にもそのような才があると朝廷は見たのだろう」
「劉氏には劉氏を.............ってことか “偽の劉氏“ と “本物の劉氏“ を戦わせるとは朝廷も中々えげつない事を考えるもんだな」
せらせらと笑う簫叡に司馬虞は半目になる。
「叡殿も劉氏であろうに しかも偽の劉氏の出自だ これを何とも思わぬのか?」
「我は劉氏を捨て簫氏となった 今や劉氏とは関わりはない 劉淵を滅ぼす為に行動してんだ そこに余計な情などいならないだろう...........さてこれからどうするよ若君」
「皇族の我が言うのもナンだが晋に居るうちは劉淵を討てぬやもしれぬぞ」
「何故?」
「晋には劉淵を倒すだけの力も金も無いのだ 朝廷では重臣共が足の引っ張り合いをし、地方の刺史や諸王は私利私欲を貪るのみで誰も天下の事など考えておらぬからだ。劉淵など小人に過ぎぬ、所詮は夷狄だと甘く見ていたからこうなったのだ。恥ずかながら我が父もそういう考えの1人だった」
司馬虞は拳を握り締める。
「................わ、若君、我にどうしろと?」
「叡殿を手放すのは惜しいが他の勢力を頼ってくれ 晋ではない勢力を―――――」
実情をよく知っていた簫叡は静かに頷く。
何もしてやれなかった贖罪か、せめてもの償いとして司馬虞は簫叡の為に盛大な宴を設けた。
「叡殿、力になってやれなくて申し訳ない この宴は我からのお詫びの証ぞ」
「若君のご厚意感謝する。これから若君はどうするつもりなんだ? このまま壷関に留まるのか?」
「いや我は父上と合流するつもりだ。いつまでも逃げてばかりでは家臣らに示しがつかぬ」
「フフッ そうだな」
宴が終わると簫叡は荷造りすると翌朝、壷関から北方に向けて旅立っていった。司馬虞も兵を整えると鄴へと急いだ。




