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第5話 義兄・劉聡

 昨日の疲れもあってか、目が覚めた時には日が高く昇っていた.........まあつまり正午に起きたということだ。


 愛しの寝床とおさらばすると、寝ぼけながら朝飯.........いや昼飯を食べる。


 メニューは塩漬けの羊肉を炙ったものと豆の汁物で、匈奴(きょうど)の食文化に馴れている俺は平気だったが、馴れていない崔岳(さいがく)にとって羊肉の臭みは耐えがたいものだったらしく豆の汁物だけ飲んでいた。


「崔岳 俺はこれから後宮に行く。アンタも付いてくるか? 疲れてるなら無理しなくてもいいぞ」


「私は君の配下だ。付いていくのは当然であろう。それで後宮には何を?」


玄明(げんめい)の兄上に会いに行くんだ」


「.........失礼なことを聞くようだが、君の兄は昼間から女と戯れているのか?」


「あの父上の子だから秀才ではあるんだけど重度の女好きで.........まあ俺にとっては良い兄上ではあるけど」


「.........」 


 当然ながら身の危険を感じた彼女は同行を断り、俺1人で後宮に行くことになった。



――――――後宮


 後宮に着くと宦官(かんがん)の案内でとある広間に通された。

 広間は(とばり)で仕切られていて昼間にも関わらず暗く感じた。

 


「積もる話は一旦置いて.........さぁ まずは一献だ!! 永明(えいめい)



 齢35とは思えない程あどけない顔をした兄は俺にニッコリと微笑みながら酒を勧めてくる。


 兄上はついさっきまで()()()()だったらしく下はキチンと袴を履いているものの、上は(ほう)を羽織るのみで帯は巻かずに床に放っている有様であった.........


注いでもらった酒をグイッと飲み干す。口いっぱいに苦味、旨みが、渋みが広がる。



(いつも飲んでる酒とは違う.........)

 


「西方の大秦(ローマ)っていう国から取り寄せたんだ。ボクはこのお酒が好きでねぇ まあ好みは分かれるけど」


「.........相変わらずだな兄上は」



(まったく能天気というか、あっけらかんとしてるというか.......大任を受けて焦ってる俺の胸中なんて知る由もないんだろうなぁ)



 兄の名は劉聡(りゅうそう)(あざな)は玄明という。


 劉淵(りゅうえん)の第3子で、俺の義兄にあたる。父に似て聡明かつ勇猛で幼い頃から洛陽(らくよう)の貴族達から一目置かれる存在だったという。



「で、その様子を表情を見るに帰ってきて早々に父上から何か言われたな?」


「えっ!? か、顔に出てたか?」


「顔色の変化で分かる」


「.........昨日 父上から太原(たいげん)上党(じょうとう)の平定を任じられたんだ」


「父上は自分が生きている間に洛陽を手中に入れたいらしい。仮に洛陽を落とせなかったとしても洛陽への道筋になる太原、上党、河内(かだい)は絶対に確保しておきたいっていう考えなんだろうよ」


「それで手始めに太原、上党って訳か.........それでこの2郡にいる晋軍はどれくらいの規模なんだ?」


司馬騰(しばとう)配下の司馬瑜(しばゆ)が総大将として3万の軍を以て、壷関(こかん)から睨みを効かしてるって話だ」


「.........俺 大丈夫だよな。勝てるよな」


 その壷関にいる3万の晋軍は間違いなく精鋭に違いない。漢軍が南下と同時に瞬時に叩き潰してそのまま左国城(さこくじょう)離石(りせき)に押し寄せてくるだろう.........


「ハァ この際ハッキリいうと漢軍は晋軍を恐れてるんだ。斜陽の晋軍と云えども逸材はいるだろうからな。かつての章邯(しょうかん)とか姜維(きょうい)のような例もある。その恐れを払拭する為にも勇猛名高い永明に出陣を頼んだだろうよ。だから恐れるな馬鹿野郎。何とかなる精神でやれ.........そうでなきゃ お前の心が壊れるぞ」

 

 面倒くさそうに吐き捨てる兄上.........口も態度も最悪だけど俺のことを案じてくれてるのは確かだ。


「.........ありがとう。少しだけ気が楽になった」


 緊張が解けたのか、それとも酔いが回ってきたせいか眠気に襲われてそのまま深い眠りに落ちていった。

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