第48話 逃亡に次ぐ逃亡
司馬瑜を自害させて新たな大都督となった田甄は一気に片をつけるべく南道を守備していた軍も呼び寄せて全軍での攻勢を命じた。
劉景軍――――――
「自らの手で勝機を逃すとは.............全く愚かなものだな」
劉景は石宇慶と石尟によって北の山に追いやられていた。
晋軍は劉景らを追撃するも却って振り回されて被害が増大したことから追撃を諦めていた。
そうした事情もあって幸いにも壊滅は免れており彼らは山中に篭もり反撃の機会を窺っていた。
「司馬瑜を排除するとはねぇ しかもこの狭い谷間に大軍を乗り入れさせるとは、阿呆丸出しよ」
副将の趙固が木陰から晋軍の様子を見ながら嘲笑する。
「司馬瑜は分かっていたんだ。この谷間は大軍にとって不利だということを..........だから彼奴は小部隊での攻勢に出た」
「事実、我々はジリジリ押されていましたからね 此度の一件は天運が味方したと云えますなアハハ」
「フッ 頭空っぽな奴が総大将になってくれたお陰で殺りやすくなったぜ 趙固!! 全軍で山を降って阿呆共の側面を突くぞ」
「御意」
劉景は石宇慶と石尟の両軍が東谷間に向かったのを確認すると側面と背後を強襲した。
無防備な脇腹と背中を襲われた石宇慶と石尟の軍は余りにも呆気なく崩壊、兵らは恐慌をきたして四方八方に散っていく。
そしてこの混乱の中、劉景と趙固が単騎で石宇慶と石尟を殺しにかかるも、石宇慶が石尟の盾となって劉景の槍を受けて討ち死に、石尟は間一髪のところで離脱に成功する。
敵の右翼が崩れたことで中央に陣していた司馬虞・簫叡の軍勢に劉景軍が殺到。
簫叡軍は簫叡が劉曜との一騎討ちで重傷を負っていたことで司馬虞が指揮を代行した。
「盾兵は右側面!! 弓兵は長槍兵を援護しろ 簫叡軍の騎兵は敵の側面に回り込め!!」
司馬虞は中央の劉綏・王忠・平先の各軍を相手に戦っていたが、右側面から劉景・趙固の軍が迫ると軍の半数を迎撃にまわした。
しかし不運にもそれを妨害する者が現れる――――――
「手柄はオレ様のもんだァ!!」
「ボンボンの若造に手柄を奪われてたまるかァ!!」
南道を守備していた李惲と薄盛の軍が司馬虞と劉景の間に強引に割って入ってきたのだ。
「あの大馬鹿野郎!! 自ら矢の的になる気か!!」
司馬虞は絶叫する。
案の定、李惲軍と薄盛軍は右を劉景軍に突かれ、左は司馬虞軍の弓兵が放った矢の雨に晒される。
「うぐっ!!」
「ギャァァ!!」
「おのれ味方に矢を撃ち込むとは!! 司馬虞ぅ!!」
逆ギレした李惲・薄盛は劉景・趙固などそっちのけで司馬虞軍を攻撃、同士討ちが始まる。
「こ、この状況で同士討ちとは.............敵は混乱してる 一気に追い討ちをかけるぞ!!」
劉景・趙固はこの機を逃さず全軍に総攻撃を命じる。次から次へと山から降りてきた漢兵は李惲軍・薄盛軍の両側面を攻撃、統率が執れなくなった両軍は南道に向けて後退していった。
そして劉曜から指揮を託された劉暉は配下の劉綏・王忠・平先に宋抽を攻撃させた。
「かかれェ!! この宋抽軍を壊滅させれば我々の勝利となる!!」
攻城によって疲弊しきっていた宋抽軍と開戦から殆ど動いていなかった劉暉軍、力の差は歴然だった。
短刀で麻衣を切り裂くように宋抽軍の隊列を突破すると、援護に駆けつけてきた周宋軍ごと壊滅させた。
宋抽軍は既に井闌車を破壊されて長梯子での攻城に切り替えるも損耗が激しく、更に今回の劉暉軍の攻撃によって逃亡する兵が続出。
攻城を任されていた宋抽軍が壊滅すると晋軍は総崩れとなり、雪崩を打って南道に壊走していく。
「追撃せよ!!!!」
城壁の上からその様を見ていた劉欽は関内に温存していた精兵をここで解き放つ。
劉欽、劉惲、劉景の3軍から追撃を受けた晋軍は南道へ逃げるも1度に多くの兵が通ろうとした為南道が詰まった。
「は、早く行けよ!!」
「うるせぇよ 前が進まねぇんだよ!!」
「後ろから敵が来てんだァ さっさと逃げねぇと殺されちまう!!」
背後からゆっくりと、そして確実に近づいてくる死の気配に晋兵はパニック状態になり武器を振り回して発狂する者や味方を殺してでも逃れようとする者、自害する者が後を絶たなかった。
この絶望的な状況に田甄や田蘭、宋抽、石尟、李惲、薄盛らは将旗を焼き捨てると一兵卒に扮して山中に逃れていった。
――――――将たる者が兵を棄てて逃亡したのだ。
総大将の田甄が逃げたことによって漢軍の勝利が確定したのだった。
戦場に取り残された司馬虞と簫叡も兵を棄てざるえなくなり泣く泣く単騎で逃亡していった。
味方から見棄てられた晋兵はこぞって漢軍に投降。こうして約1週間に渡る戦いは幕を下ろした。




