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第47話 金創医

 晋将・司馬瑜(しばゆ)が自害した頃、俺はそんな事は知らずに陣営内に設けられた救護所で金創医(きんそうい)(刀傷の治療を専門とする医者)の治療を受けていた。


 簫叡(しょうえい)と血みどろの乱闘を繰り広げていたが、突然現れた劉欽(りゅうきん)の衛兵らに止められたのだ。



 その衛兵曰く “兵を預かる者が一騎討ちをするなど言語道断である。漢王の耳に入れば貴殿は王位剥奪の上、謹慎もあり得ますぞ“ ..........とのことだった。



 必ず簫叡を討ち取ってみせますと啖呵を切っておきながらズゴズゴと引き下がれるか と言いたかったが、父上から不興を買うのは色々不味かった為、大人しく引き下がったのだ。



そして今に至る――――――



「.............大小15箇所、そのうち大きい傷は肩と右脇腹の裂傷 将軍、この容態で戦の指揮は不可能でございます故、一度離石(りせき)にて養生なされた方が良いかと思われます」


 応急処置を終えた金創医が器具やら包帯を片付けながらそう勧めてくる。


 ありとあらゆる箇所に傷が出来ており、簫叡から斬りつけられた肩や脇腹の傷は深いらしく、このまま激しく動けば傷が更に裂けて最悪の場合失血死の恐れもあるらしい。


「ど、どれくらい休めばいいんだ?」


「そうですねぇ..........早くて半年、完全に回復するには1年といったところでしょうか」


「そ、それでは困る!! 俺は大陵(だいりょう)の戦線を預かってるんだ 俺が居なきゃ戦線が危うくなる」


「左様ですか しかしながら御自分の命さえも粗末に扱うような方に、漢王様が大事な戦線を預けるとお思いですか?」


金創医の言葉に俺は目を背けた。


「大陵には俺の異母弟がいるんだ。弟ほったらかしにして離石に留まっていられるかよ」


「貴方様は建武将軍(けんぶしょうぐん)始安王(しあんおう)という位を漢王様から賜っている。この意味をお解りか?」


「..............」


「一介の将軍ならば兵を鼓舞する為にも最前線に立つ必要がありましょうが、貴方様は始安王...........王様なのです。更に云えば漢王と同格つまり対等の存在なのです 時勢によっては “漢王の後を継ぐ“ ということもありましょう 身内をお気になさるのは結構ですが、その前にどうか御自身を大切にして下され」


これにて失礼 そういうと金創医は荷物を持って陣幕から出ていった。


 それからどれくらいの時間が経っただろうか...............戦の疲労と金創医に飲まされた薬湯で気がつけば眠ってしまっていた。

 目が覚めた時には夜が更け、朝方から降っていた雨はすっかり止んでいた。



――――――「あ、兄上!! 朗報だ!!」



 長い眠りの底から俺を叩き起こしたのは弟の声だった。陣幕の入口から勢いよく飛び込んできた劉暉(りゅうこん)はさっきまで戦っていたらしく鎧のあちこちに返り血が付いていた。


「朗報? 俺らは敵にジリジリ押されていると思っていたんだが............」


「謀略が成功したぞ 司馬瑜(しばゆ)が自害した!! 後任は田甄(でんしん)田蘭(でんらん)の兄弟になったんだ これで漢軍は勝てる 何せあの兄弟に人望やら将才はないからな」


「...........その司馬瑜がどの程度の戦術家かは知らんが、司馬瑜を排除したくらいで勝てるのか?」


俺の問いに劉暉は目をカッと開いて突然早口になる。


「司馬瑜を知らないのか? 并州(へいしゅう)の反乱勢力の間じゃ死神って呼ばれてる男だ。反乱軍はどんな要害に立て籠もろうとも司馬瑜には通用しなかったっていう話だ」


「それ程の名将が漢軍に苦戦していたのか?」


「あぁ、我も何で苦戦してるのか分からなかったが探りを入れた結果、左右の腕となる将は死んでおり、さらには寄せ集めで統率が執れてないことが分かった」


「...............司馬瑜一人の力ではどうにもならなかったって訳か 本来の力を発揮出来ず、味方に足を引っ張られて、根も葉もない罪を着せられて死んでいく..........敵ながら哀れなもんだな」


「まったくだ。我ながらえげつない事をしたと思ってるよ まあそのえげつない事で勝てるんなら、いくらでもやりますがね」


「おっかねぇ弟だ こりゃ敵に回したら命がいくつあっても足りねぇな」


 その後、俺は劉暉に指揮権を預けると金創医の云うとおり離石の自邸に帰った。痛みが酷くとても指揮を執れるような体ではなかったからだ。

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