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第41話 劉暉の謀略

東谷関(とうこくかん)劉曜(りゅうよう)軍――――――



 喬晞(きょうき)劉景(りゅうけい)が敵軍への攻撃を開始していた頃、中央に陣する劉曜軍は一兵も動かすことなく、ただ闇雲に時を過ごしていた...........



「のう崔岳(さいがく)殿、我らはいつ動けばいいのだ? 左右の兵は既に動いているではないか まさかこの期に及んで怖じ気づいたのではあるまいか」


「劉曜殿は何を考えておられるのやら..............このままでは他の者に手柄を奪われかねんぞ」


 王忠、劉綏、崔岳は再三に渡って劉曜に対して士気が下がる前に攻勢をかけるよう進言するも、彼は信頼する崔岳の意見でさえはね除けた。


 ただ一つ崔岳だけは劉曜が何かを企み、その準備をしていることだけは知っていた。


 開戦当初から彼のいる本営に商人の格好をした者や、農夫の格好をした者が頻繁に出入りしているのを見かけていたのだ。


永明(えいめい)は敵が弱点を晒すのを待っているのだろう。今は敵陣の防御が堅く、闇雲に攻撃しても損害が増えると踏んで動かぬのであろう..............両名よ、今は兵に酒と肉を振る舞い士気が下がらぬよう気配りせよ 猪突猛進の永明のことだ、機が訪れたら一気に攻めるだろうからな」


「機が訪れたら...........その機はいつ訪れるのだ?」


「申し訳ないが、それは私にも分からない.............」


崔岳は2人から視線を逸らした。



劉曜軍・本陣――――――


「兄上、間者の報告によれば東嬴公(とうえいこう)は噂を鵜呑みにしたようだぞ」


「ほぉ、となると司馬瑜(しばゆ)の命はあと数日で尽きると?」


俺と同じ真紅の瞳を切り結び、弟の劉暉(りゅうき)は静かに頷いた。


「東嬴公の早馬は既に晋陽を離れている。もうじき到着するだろうから、それまで我らは敵の攻撃を適当にあしらいながら行く末を見守るのがいいだろう」


 司馬瑜らが臨汾(りんふん)に到着したと聞いた俺は戦わずに退かせる策を考えていた。

 そして思いついた策が「離間の計」であった。

 東嬴公・司馬騰(しばとう)の無能ぶり并州(へいしゅう)の民や貴族なら誰もが知る。

 その無能ぶりに愛想尽かしている連中に多額の賄賂を送り、司馬瑜の悪評を晋陽内にバラ撒かせ、司馬騰に対しては “司馬瑜が并州の民を慰撫して支持を集め、密かに謀反を企んでいる” と吹き込ませた。


 これが臣下の性格や実績を加味して信じているなら、主はこんな戯れ言を信じることはないだろう..............しかし司馬騰は長らく骨肉の争い中に身を置いてきたお方、同じ一族たる司馬瑜を根っから信じることはまず不可能であろう――――――俺はその弱点を突いたのだ。


 俺には2人の弟がいる、1人は異母弟の劉雅(りゅうが)、もう1人が今目の前にいる同母弟の劉暉だ。


 それぞれに役割があり劉雅は後方の守り、そして劉暉は内政や謀略といった裏方を担当してもらっているのだ。


 此度の司馬瑜を貶める謀略はこの劉暉からの提案だった。


「適当にあしらうことが出来ればいいが..........今俺らが相対していてるのは司馬虞(しばぐ)簫叡(しょうえい)なんだぞ」


「兄上なら大丈夫だろ? 我らには「漢」と「劉」の御旗がある。そこに兄上の「武」が加われば怖いものなしさ」


弟はそういうと俺を安堵させるかのように微笑んだ。


 そんな中、冠軍(かんぐん)将軍の喬晞(きょうき)が討ち死にしたという報せが左軍副将の平先(へいせん)からもたらされた。


 平先は泣きながら俺にどうすべきかと問うてきたが、俺は指揮系統の混乱を避けるべく平先にそのまま左軍を任せた。

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