表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/47

第39話 それぞれの戦場

 305年5月中旬、東谷関(とうこくかん)での衝突が初戦になるかに思われたが、開戦の火蓋は太原郡(たいげんぐん)の北に位置する新興郡(しんこうぐん)にて切られた。


 予てより拓跋部(たくばつぶ)の備えとして置いていた綦毋豚(きかんとん)率いる2万の漢軍が、拓跋猗盧(たくばついろ)率いる5万の軍勢と激突したのだ。


 綦毋豚は鮮卑族(せんぴぞく)から匈奴(きょうど)に降った将軍で対する拓跋部も鮮卑族である。同族同士、戦い方も熟知しているだろうと考えた劉淵(りゅうえん)の差配であった。



「ここを抜かれれば敵は太原から西河(せいが)に雪崩れ込む!! 食い止めねば――――――ッ!!」



 拓跋部の騎兵は精強で、匈奴騎兵でもその侵攻を食い止めることは難しい。


 そこで綦毋豚は攻勢には出ず、山中の要害を利用して抗戦することで兵の損耗を防ごうとした。


 山の入り口には簡素な門を設け、崖の上や高台には櫓を建てて弓兵を配し周囲を見張らせた。


 谷には伐採してきた材木を横倒しにして塞ぎ、尾根は途中で堀切を掘るなどして要害化していたのだ。


 これには拓跋部の軍勢も容易に手が出せず、どうにか漢軍を平野に引きずり出そうと挑発を続ける。


 しかし綦毋豚の徹底した籠城を前に全くもって効果はなく、ついに業を煮やした拓跋猗盧は騎兵を後方に下げ、歩兵を全面に立たせて攻撃を試みるも、要害堅固な山々を前に大損害を出して撤退、両者は睨み合いの膠着状態になった。



一方、西の高奴(こうど)では――――――



「このまま離石(りせき)に攻め込むぞォ!!」



 高奴一帯の鮮卑族をまとめていた陸逐延(りくちくえん)氐族(ていぞく)の族長・単徴(ぜんちょう)と共に挙兵。


 鮮卑・氐族の連合軍は総勢10万にも膨れ上がり東進しながら村々を焼き払い、物を奪い、男を殺し女を犯した。

 

 この模範的な蛮族行為に大怒した劉淵は太子・劉和(りゅうか)を総大将に、三男・劉聡(りゅうそう)を副将に6万の精兵を与えて迎え撃たせた。


 因みにこの6万という数、離石にいた守備兵をかき集めたものだった。つまり今の離石は劉淵を守る禁軍しか残っていない状況で、城中はもぬけの殻になっていた。


 劉和と劉聡は西へ進み、黄河を渡ると二手に分かれて北と南から高奴に迫った。


 途中、劉聡はオルドス地域を拠点にしていた鉄弗部(てつふつぶ)の族長・誥升爰(こうしょうえん)に援軍要請の使者を送っていた。


 そして援軍が到来すると劉聡は騎兵の機動力を以て陸逐延の野営地を夜襲して壊滅させた。陸逐延は僅かな兵と共に高奴に逃げ帰ったのだった。


主戦力だった陸逐延が敗れたことで連合軍はこのまま瓦解するかに思われた。



しかし事はそう上手くはいかなかった。



「退けェ!! 退けぇェェェ!!」



単徴と交戦していた劉和が敗走したのだ。


 不慣れな遠征で体調を崩した劉和に代わって指揮を執っていた呼延攸(こえんゆう)は、単徴の偽装退却を見抜けず、深追いした結果伏兵に側面を突かれてしまったのだ。


 単徴率いる氐族の軍勢は敗走する劉和軍を追撃、敗走に敗走を重ねた劉和軍は壊滅、劉和と呼延攸は兵を捨てて劉聡軍に逃げた。



――――――劉聡軍


「すまない.............玄明(げんめい)(劉聡の(あざな))。私は不甲斐ない兄だ ゴホッ ゴホッ!!」


劉和は劉聡の本営に入るなり弟の前で土下座した。


「やめてくれ兄上、兄上は悪くないじゃないか。さぁ立ってくれ」


「申し訳ない..............」


 劉聡は劉和を立たせると自分が来ていた外套を羽織らせた。

 顔面蒼白でガタガタと震えている劉和を哀れに思い劉聡は家臣に命じて良薬を持ってこさせた。

 そして劉和の鎧を脱がせて汗で濡れた体を拭かせると良薬を飲ませて(しょう)に寝かせる。


「兄上、なぜ呼延攸などに指揮を任せた? 彼奴は父上から重用してはならぬと言われていただろう」


 呼延攸は呼延翼(こえんよく)の子として産まれ父と共に劉淵に仕えていた。勇敢で人望のある父とは違って彼は利己的で対した能力もなく、低俗だった為劉淵から嫌われていた。


 しかし姉が劉淵の妻となり劉和を産むと、上手く取り入って劉和の側近として抜擢されていたのだった。


「呼延攸は私の叔父だ。無下には出来ないだろう............それに私の躰は玄明とは違って弱いのだ。叔父上がいなくては生活が出来ない」


「それならボクを頼ってくれればいいのに...........兄上が呼んでくれれば直ぐに駆けつけるよ」


「ふっ、そうは言っても玄明はいつも後宮に入り浸りで出てこぬであろう」


「アハハ、兄上が即位したら片腕として身を粉にして働くつもりだから安心してくれ。まあ、今は体を労ることだな 癒えたら衛兵をつけて離石まで送ろう そんじゃまたな」


劉聡はそう言い残すと本陣から出ていった。


 劉聡はその後、劉和が率いていた兵をかき集めた。そして集まった兵はたったの2千余り.............総勢6万の内、劉聡が2万を劉和が4万率いておりその劉和軍がそっくりそのまま壊滅したのだ。


 つまり鉄弗部からの援軍がなければ劉聡軍は2万の兵力で単徴の相手をしなければならなかったのだ。


 鉄弗部の誥升爰に内心感謝しつつ、劉聡は12万の軍勢と共に単徴の大軍と対峙するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ