第38話 危惧
武牙将軍・劉欽は兵10万を率いると離石から東に位置する呂梁の山々を行軍していた。
劉欽から兵3万を与えられた俺は軍の先頭を急ぎ呂梁の谷を道なりに進んでいく。2度目の夜を越したある日、目の前に巨大な石壁が現れた――――――いやそれは石壁ではなく石造りの門が
――――――東谷関、漢王・劉淵が晋から独立を宣言した頃から建築が始まり、先月完成したのだという。
谷閒に築かれた巨大な城塞は洛陽八関を模して造られ、東の玄関として機能していた。
東谷関・劉曜軍――――――
「俺ら前鋒は東谷関を素通りして前面に陣を敷くぞ!!」
前鋒3万を東谷関の前面に展開させると俺は中軍の幕舎に諸将を招集した。
「劉曜殿、先ずは礼を言わせてくれ 我が死罪にならずに済んだのは貴殿の助力によるものと聞いた。感謝申し上げる」
喬睎はそう言葉を述べると平伏した。
今回は危急存亡ということもあり罪を犯した者であっても功を挙げれば罪を赦すという条件付きで保釈されていたのだ。
「喬睎殿、今は国難に立ち向かうとき。わだかまりは捨てて左軍の将として存分に力を振るいなされ」
「はっ!!」
喬睎が陣幕から出ていくと別の将軍が入れ替わりで入ってくる。
「建武殿、敵が来たら存分に暴れてみせますぞ!!」
「右将軍の劉景殿か うむ!! 大陵での鬼神の如き働きを期待おるぞ!!」
「はっ!!」
劉景は余程暴れられるのが嬉しいのかウキウキで陣幕から出ていった。
漢軍随一の猛獣2頭を率いて戦うハメになってしまった。この決定を下したのは劉欽であり、崔岳、劉綏、王忠といった俺の家臣はこの状況に憤慨していた。
「君はいつから猛獣使いになったのだ?」
「よせ崔岳 俺は猛獣使いになるつもりはないし、諸将と喧嘩をしに来た訳でもない 和を乱すようなことをいうな」
「............劉景殿はそもそも命を訊かぬ 喬睎殿も頭に血が上れば我を忘れて殺戮に奔る!! かような輩を君は御せるのか!?」
「ハァ とは云っても仕方が無いだろう。上手いこと煽ててやれば働くだろう 今はとにかく仲間割れはしないことだ よいな!!」
「「「御意」」」
崔岳らはずこずこと引き下がった............まあ ”手柄の横取り“ や “些細なことでの逆恨み” を彼女らは一番危惧していたのであろう。
――――――だがそんな危惧は無駄である そんな疑心は却って軍内部の分裂を起こす種にもなるのだ。
東谷関・劉欽軍――――――
前鋒の劉曜軍が布陣を完了したという報せを受けた劉欽は遂に東谷関に入城。南宮に本陣を置くと直ぐに斥候を放って情報を集めさせた。
「武牙将軍、建武殿に喬睎と劉景を預けたとお聞き致しました。これは真にございますか?」
「彼らを手元に置いておく理由はあるまい。それよりも前鋒として大いに働かせた方が良かろう」
「いえ、そういうことではなく お二方の気性のこと、恐らく建武殿を怒らせるのではと不安なのです。建武殿も若くて必ずしも温和とは云えぬ性格にございます 些細なことでの喧嘩になれば矛を交える可能性もごさいましょう」
副将の劉盛が拱手しながらそういう。しかし劉欽は首を横に振って否定した。
「劉曜将軍は貴殿と同じく漢王に絶対的忠誠を誓っておる かような馬鹿げた真似をすれば漢王の威名を損なうくらい理解しておろう 余計な憶測はいいから、さっさと平陽の敵陣を落とす策を考えよ」
「ぎ、御意!!」
劉盛は再び拱手すると下がっていった。彼は劉淵の弟、そして劉欽の兄にあたる人物である。本来であれば指揮を執るのは劉盛であったが、彼は武官ではなく文官の立ち位置であり、此度の従軍においては参軍の役目が与えられていた。
一介の将軍ならまだしも実兄にして参軍の言葉を無視することは出来ず、劉欽は虎符を喬睎と劉景それぞれの副将に手渡すことにした。
虎符を渡す際、劉欽は副将らに “もし問題を起こして手がつけられない場合、その場で処断すべし” と命を下したのだった。




