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第37話 武牙将軍

 漢王の問いかけに応じる将はいなかった。誰もが互いに顔を見合わせては首を横に振る始末で、誰も名乗り出ることは無かった.........


 一旦、休憩が挟まり再び朝議が再開されたが、やはり誰も挙手しない。


 しびれを切らした漢王は太子である劉和(りゅうか)を大将軍に、太尉(たいい)劉宏(りゅうこう)を副将に、劉恭(りゅうきょう)劉聡(りゅうそう)をそれぞれ左右の将軍に任命して事に当たらせようとする。



 しかしその必要は無かった...........何故なら最古参の将軍・劉欽(りゅうきん)が3ヶ月ぶりに離石(りせき)に戻ってきたからだった。


 ざわつく百官を余所に劉欽は剣を帯び、深紅の外套を揺らしながら堂々と王宮へ入ってくると漢王の前で跪いた。



「劉欽 只今戻りました」



「ここ三月(みつき)の間、姿を見なかったが、どこにいたのだ? 心配して使いを邸にやっても不在だと言われたというが.............」



「これは申し訳ない 丞相(じょうしょう)から敵の規模や動きを探ってもらいたいと言われまして、(われ)を含む100名程が商人の姿に化けて平陽(へいよう)蒲子(ほし)安邑(あんゆう)に潜んでおりました」


 劉欽の言葉に漢王は驚きながら、ソッと劉宣(りゅうせん)を睨む............ “何故わしに話してくれなかった” そう目で訴えるも劉宣はどこ吹く風といった感じで視線を逸らす。


「............して探った結果どうであった?」


「安邑から平陽、上党(じょうとう)から平陽に大量の資材や兵糧が運び込まれております 既に先鋒が到着しているようで平陽周辺には無数の砦が築かれており、晋と描かれた白旗が翻っておりました」


「平陽から離石まで5日はかかる 5日の内に防御網を築かねばならぬのか...........それで先程、先鋒が平陽に入ったと申していたが、その先鋒を率いる将は誰だ?」


前鋒都督(ぜんぽうととく)簫叡(しょうえい)と申す将です 巷では名の知れた驍将(ぎょうしょう)でございます」


 その名を聞いた瞬間、漢王の肩がピクリと僅かに反応した。


 そしてその名を聞いた俺は背中にビッシリと汗をかき、鼓動も異常な程早くなっていた...........



(簫叡、だと? あの簫叡が攻めてるのか...........ま、まさか同姓同名なだけで人違い そう人違い 人違いなんだ)



かつての友が攻めてくる――――――信じたくはなかった。



そして気がつけば俺は漢王の目の前に跪いていた。



「如何した、建武将軍(けんぶしょうぐん)


「此度の戦、先鋒に任じて頂ければ敵の前鋒都督を撃破してみせます」


「...............ならん 将軍は大陵に進駐して東からの敵襲に備えよ」


 何か思うところがあったのか、少し間が空いてそう答える漢王..........いや今の表情は明らかに王としての表情ではなかった。父親としての顔だ。それも愛憎入り混じった、とても言葉では表せない表情だった。


(一夜の過ちで出来てしまった子を我が子と認めず 今まで向き合ってこなかったから、こうなってるんだ.............同情は出来ねぇな)


「大陵には弟の劉雅(りゅうが)が3万の兵共に進駐しております故、心配には及びませぬ 然れど南から攻めてくる簫叡に関しては対処を誤れば、奴の刃が王の胸を貫くでしょう 俺はかつて簫叡と親交がありました故、ある程度の対処は出来ます」


「ある程度の対処とは?」


「簫叡の強さはと覇王項羽(はおうこうう)と同等のモノです 白兵戦で奴を討ち取るのは不可能、ですので追い払うことが出来れば上々かと思います」


「う、討ち取れないのでは意味がないではないか!!」


 漢王にとって国の体制が整いつつある今 “漢王の後継者” と主張する簫叡の存在は邪魔でしかなかった。

 消せるものなら今すぐにでも消したかったんだろう しかし俺の口から討ち取れないと聞くと青筋を立てて大いに怒った。


「今は討ち取るのが目的ではなく、大挙して攻めてくる晋軍から、この離石を守りつつ追い払うのが目的です 漢王様、そこを履き違えてはなりませぬ」


大怒して我を忘れている漢王に劉欽が釘を刺す。


「――――――ッ!! 劉欽と劉曜、そこまで申すなら其方らに兵を預ける 劉曜を前鋒都督・建武将軍に、劉欽を大都督・武牙将軍(ぶがしょうぐん)に任じる!! 晋軍を追い払うのだ」


「「御意!!」」

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