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第34話 婚礼

 卜泰(ぼくたい)の妹との婚礼が決まるや、あれよあれよと結納の段取りが組まれ、劉氏と卜氏それぞれの仲人が行き来する..........まるで始めから仕組まれていたかのようなスピードで進行していった。


 当然ながら晴れの舞台ということもあり、俺の邸には ”漢“ や “劉” と描かれた深紅の将旗が掲げられた。そして門前には百人の衛兵と家臣らが居並び、花嫁の到着を今か今と待っていたのだった。


 花嫁を連れた一団が現れたのは日が高く昇った頃で、卜泰を先頭に50人余りの衛兵が花嫁の乗る輿(こし)を守るように取り囲んでいた。


 そして邸の門前までくると卜泰が俺や家臣に一礼したあと、右腕をあげて輿を降ろすよう合図を送る。


 ゆっくりと置かれた輿から女性が降りてくる。



「卜泰の妹・(すい)にございます 不束者ではございますが、今後ともよろしくお願い致します」



 俺の目の前まできた彼女はペコリとお辞儀してそう言った。


 崔岳(さいがく)も類い稀なる美貌の持ち主だったが、この翠という女性はそれ以上の美しさだった。


 流れるような黒髪は日の光に照らされて艶やかに輝き、雪のよう白い肌はこの世の者とは思えない程であった。



「天女..........だ て、天女が舞い降りたァ」



「え!?」



 余りの美しさに心の声が口から漏れた。その言葉がもろに聞こえたのか翠は頬を紅くしてうつむく。



「ゴホン こ、これは失礼 祝宴の準備が出来ておりますので どうぞ中へ」



 気色悪いことを言ってしまったと後悔しつつ、俺は花嫁の一行を邸に招き入れるのだった。



自邸・広間――――――



 「さぁ 両者の新たな門出に乾杯といこうじゃないか!!」



 祝宴の席にて卜泰はそういうと一気に爵の中を飲み干す。それに釣られて他の家臣らも酒をあおった。


「婿殿は将来を約束されたお方 これで卜氏は安泰よ アハハ」


「婿殿 姫を宜しく頼みますぞ 男子が産まれたら是非とも見せて下され」


卜泰の家臣は皆が上機嫌な様子であった。


(そうだよな...........世継ぎをつくらないといけないんだよなァ)


 今世継ぎをつくったとして産まれてくるのは来年の今頃................そして俺が45歳の時にようやく後を継げる年齢となるのだ。


 15年の歳月があれば天下は定まる.............天下が定まれば過度な能力なんていらない、凡庸でもいい、劉氏の祭祀を行えればそれでいい、そんな甘い考えを俺は持っていた。

 

 そしてそんな自分の甘さに気付くのは、もっと先になってからだった――――――


 祝宴は日没と共に終わった。卜泰は邸を出る際、”妹を頼みますぞ“ とそう言い残して帰っていった。


「旦那様 お茶をお持ち致しました」


 家臣や衛兵を帰らせた後、俺は疲れと酔いから(しょう)の上に寝ていた。するとその様子に心配したのか翠が茶を持ってきてくれた。

 爵に入った茶を一口飲むと苦さと暖かさが躰の隅々にまで染み渡る。


「ハァ ありがとう 美味しかったよ」


「いえ 大分お疲れのようでしたので..........旦那様はあのような場には、てっきり馴れているかと思いました」


「フッ 俺は元より山に引き篭もってた自堕落者だ あのように客人が集まって琴の音色を聞きながら酒を飲むなんて初めてだった」


「ふふふ でもそう言う割には凄く楽しそうでしたよ?」


 上目遣いで顔を傾げる翠 それを見てドキッとする俺..........無意識でやってるのか、あえてやってるのか定かじゃないが、その様はとても蠱惑的だった。


「翠殿のような美しい姫が隣にいれば、誰だって上機嫌になるさ」


「お戯れを.............妾は一介の女人に過ぎません 都の娼妓(しょうぎ)にも劣ります」


「俺の前で謙遜は不要だ 俺はただ事実を言ったまでのこと これから夫婦として長い付き合いになるんだ お互い遠慮はなしでいこう その方が俺は気楽でいい」


爵を置いて右手を差し出すと、翠は頷いてその手をとった。

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