第33話 お目出たい話
西河国・離石―――――――――
介休での騒動が落ち着いた1月下旬、俺は重臣の劉雅を大陵に派遣して守らせ、自らは離石に留まっていた。
離石にいる間、特にやる事も無く自邸に籠もり書を読み、客人をもてなして酒を酌み交わす日々が続いていた。
そんな中、卜泰という中年男性が訪ねてきたのだ。
「なに? 妹を嫁にもらって欲しいだと?」
「左様 貴殿はもう齢30であろう。その齢で世継ぎはおろか、伴侶もおらん 何故妻を娶らない?」
使用人が煎れた茶を飲みながら卜泰は不思議そうに聞いてくる。
俺くらいの年齢であれば子供の1人や2人いてもおかしくない。実際、義兄の劉聡には既に3人の子がいて、まだ産まれてない子も含めれば多分10人くらいはいる...........いやアレは参考にしてはいけないような気がする。
「俺は劉氏の出身ではあるが、漢王の子ではない にも関わらず漢王からは実子以上に可愛がられ、恩恵も沢山受けてきた。だが漢王が崩御した場合、果たして他の太子は後ろ盾の無い俺をどうするだろうか? 厄介者として排除しかかるだろう」
「...........そういう事でございましたか、仮に妻子がいた場合、巻き添えになると懸念していた訳ですか しかしながらその懸念は杞憂にございますぞ」
「なに 杞憂だと?」
卜泰は表情を和らげると諭すように語り始めた。
「そもそも貴殿の父・劉緑は右賢王・劉猛の討伐で武功をあげたお方だ。 “単于(匈奴の王号)と僭称し、故地を大いに荒らした逆賊に立ち向かった英雄” 貴殿はその英雄の子にございますぞ 誰が貴殿を殺めることが出来ましょうか 仮に殺めたところで、その者は周囲から孤立して自滅するでしょう」
「..........その話、初めて聞いたんだが」
父・劉緑の話は誰からも聞いたことがなかった。聞いたとしても 返ってくる答えは ”詳しいことは判らないが、勇猛な将軍だった” 的なことばかりだったのだ............
「そうであろうな...........まあこの話は後日致すとしよう 長くなるのでな それよりも縁談の話に戻すとしようではないか」
「............ん そ、そうだな」
卜泰は何かを隠している...........そんな気がした。まあそんな重要なことではないのかもしれないし、後日話してくれるならそれでいいや この時はそう思っていたのだ。
「漢王は太子らに白馬の血を啜らせ、自分の死後、従兄の系統に手を出さぬよう誓わせておる それ故、貴殿が心配するような事は起きぬから安心して妻子を持つがよいぞ」
「そ、そうか それで俺との縁談を妹御は承知してるのか?」
「無論、承知しておる ついでに漢王も承知しておるぞ」
(漢王も知ってるのか..........ッ さようなら 俺の外堀――――――)
漢王の耳にも入ってるとあらば断るのは不味い、後で問い詰められる可能性もあった為承諾するほかなかった.............
「分かった 後日仲人を立てよう」
「ありがとうございます」
卜泰はウキウキした様子で邸を去っていったのだった。




