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第32話 大攻勢の準備

305年1月――――――上党郡(じょうとうぐん)壷関(こかん)


 大陵(だいりょう)では簫叡(しょうえい)劉雅(りゅうが)に、汾西(ふんせい)では司馬虞(しばぐ)劉曜(りゅうよう)によって敗れ、更には長子(ちょうし)屯留(とんりゅう)まで落とされた晋軍は壷関から一歩も出られなくなっていた..........


「ハァ めでたい正月だというのに..........」


壷関の守将・司馬瑜(しばゆ)は目の前に出された祝いの料理を憎たらしげに見つめていた。

 先の戦役で失った兵は数千から数万、その中には壷関で鍛えた精兵も多く含まれていた。


「やはり我が自ら指揮すれば良かったな............さすれば今よりはマシな結果になっていたやもしれぬ」


 そして次の戦は自ら指揮を執ると決意すると司馬虞と簫叡を呼び出した。


 2人は敗戦した後、晋陽(しんよう)に戻ろうとしていたが司馬虞の家臣が止めたのだ。何故かといえば ”戻ったとしても司馬騰(しばとう)の逆鱗に触れ、たとえ嫡子であっても処刑される可能性が高い“ からであった。


 司馬虞と簫叡は家臣の提言を聞き入れると敗残兵を晋陽に帰して、自らは数十騎の衛兵を伴って壷関に落ち延びたのだった。


 そしてそんな2人を温かく迎え入れたのが司馬瑜であった。彼は2人を客人としてもてなし、司馬騰に対しては当分の間2人を預かる旨と日頃の横暴を諫める内容を綴った書簡を送っていたのだった。


「司馬虞殿も簫叡殿もお変わりないか? しっかり食べてるか?」


「ご心配なく この通りピンピンしております」


「お気遣い感謝致す 若君の言われる通り 我もこの通りにございます。 それよりも東嬴公(とうえいこう)から書簡が届いたと伺いましたが、いかなる内容で?」


2人は拱手(きゅうしゅ)すると左右に用意されていた席に座り祝いの酒を一口含む。


「君らが気にするようなことではない これは君臣の問題 無闇に首を突っ込むものではない それよりも今問題なのは漢軍の勢いだ。連中は一挙に盆地の南を攻め取り、この上党にまで手を伸ばしてきた...........まったく忌々しいものよ」

 

「司馬瑜殿 連中を追い払うにはどうすれば良いだろうか? 目下我らはまな板に載った鯉も同然 ただ捌かれるのを待つのみでは?」


不安げな表情で司馬虞はそういう。


「そう悲観することはない 既に策は立てるのだ ここにその策を記してあるのだよ」


 司馬瑜は部屋の隅に乱雑に積まれた竹簡の山から1本の竹簡を引っ張り出すと、それを司馬虞に投げ渡した。


「.................」



――――――我らは5つの軍を以て漢軍を追討する。


1つ..........上党郡へ通じる間道を全て塞ぎ、()(ちょう)の地から出来る限りの兵をかき集める。


2つ..........平陽(へいよう)の太守・宋抽(そうちゅう)に兵3万を与えて南から盆地内に侵攻させる。


3つ..........上郡(じょうぐん)陸逐延(りくちくえん)に金銀を与えて離石の背後を突かせる。


4つ..........盛楽(せいらく)拓跋猗盧(たくばついろ)に官位と金銀を与えて、離石(りせき)の北にある左国城(さこくじょう)を襲わせる。


5つ..........大軍を以て呂梁(りょりょう)を越えて離石に攻め入る。



 竹簡にはそう記されていた。文面にはあちらこちら刀子(とうす)で削って書き直した後があり、その苦労が伺える................


「この策は各軍の連携がとれて初めて生かされるものだ まあ利で釣られた連中がどれだけの動きをしてくれるかは未知数ではあるが.............」


司馬瑜は爵を飲み干すとそう溢した。


 そして2月に入ると司馬瑜は自らを大都督(だいととく)と称し、司馬虞を副都督(ふくととく)・簫叡を前鋒都督(ぜんぽうととく)に任じて戦の準備に取りかかった。

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