第28話 扱いに困る献上品
西河郡・離石――――――
「太原での功を鑑みて、建武将軍・劉曜を始安王に封じ 更に宝物10点と千金を与える」
「慎んでお受け致します」
文武百官が離石の宮殿に集まる中、俺は丞相・劉宣が読み上げる書状を聞きながら漢王の座る玉座の前に平伏していた。
(騒動に巻き込まれて朝鮮に逃げた頃は、こんな事になるなんて思いもよらなかったな..........人間万事塞翁が馬っていうのは、こういうことなんだろうな)
逃亡者→引き篭もりのニート→将軍→一国の王への出世――――――端から見れば誰もが羨む展開だろうが、俺にとっては父からの期待が増したように感じて大きなプレッシャーとなっていた。
「永明よ 其方が晋の都・洛陽を征する日を、わしは楽しみに待っておるぞ」
「...............期待に添えるよう日々励みます」
論功行賞が終わると朝議が始まる。朝議では度重なる飢饉や流民による略奪、食糧確保など内政重視の話し合いが行われた。
そして話し合いの結果、しばらくは戦を止めて民を休ませ、食糧の備蓄や兵の調練に専念するという結論に至った。
将軍府――――――
「将軍!! これはどちらに!?」
「祝いの献上品が多過ぎ!! 置き場所が無いですぞ」
「此方の反物は!?」
朝議の後、邸宅兼仕事場として与えられた将軍府に戻ると、使用人や家臣達がデカイ箱やら長い反物を手に忙しく屋敷内を動きまわっていた。
「これは?」
「全て漢王やその側近、そして離石の民達から王になった君への献上品さ 愛されてるねぇ」
背後からヌッと現れた崔岳がそういう。
「............民にとっては重荷だっただろうな この献上品を用意するのも、ここへ運ぶのも そのぶん 彼らの期待に応えなきゃって思うと気が重くなる」
「ふふ 漢王はその数十倍いや数百倍の重圧を受けている それを考えれば君が今受けている重圧など微々たるものではないか」
「..............そうだな 漢王の胸中を考えれば、甘えたことは言ってられないな」
崔岳は静かに頷く。
献上品の仕分けが終わったのは夜が更けた頃だった。疲れ切った顔をした劉雅が献上品の目録を手渡してきたのは、俺が寝床に入ろうとした時であった。
「悪いな こんな夜遅くまでやらせて」
「いえ 戦働きに比べれば楽なものですから ところで、この膨大な献上品をどうなさるおつもりで?」
「これをそのまま頂いてしまっては強欲な王と思われるな 8割を民に返して2割を頂くとしよう。もちろん2割はお前達のもんだ」
「え? そ、それでは将軍の取り分が...........」
「俺は馬上から指揮していただけ 武器持って現地で戦ったのはお前達だろ? ならその手柄はお前達のモノだ」
元より俺は朝鮮や管涔山にいた頃は身一つだった。だからこんな豪華な調度品や反物を貰っても嬉しくないし、その上使い方も分からないのだ。
人間 衣食住が整っていれば充分なのだ。それ以上を望めば要らぬ欲が芽生え、やがて底なしの沼に沈んでいくのだ。
「将軍はよいのですか? このような絢爛な贈り物 滅多にお目にかかれませんよ」
「今の俺に必要なのは共に戦ってくれる仲間だ こんな代物を貰っても何の役にも立ちはしねぇよ」
劉雅は “それでは直ちに民にお返し致します” と改めて平伏してそう言うと部屋から出ていった。
後日この話が宮中に広まると人々は俺を ”忠勇の士“ と称え、父からは “諸将の模範である” と褒められた。




