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第25話 八人の王





「貴様が劉曜(りゅうよう)か 見た目は都の美姫に勝るとも劣らぬ だが内は関羽・張飛をも凌ぐ強さをもつ..........俄に信じがたいがが元海(げんかい)がそう言うのだから真であろうな」





 熊ひげ長身の中年男が俺の体をまじまじと見ながらそう言う.............まるで気に入った女を品定めするかのように――――――



「...................」



「ガハハッ!! そう拗ねた顔をするな せっかくの美貌が台無しやぞ まあお主を攫ったことは悪いと思ってる だからこうして上等の酒を振る舞っているのだよ」



 そうこの熊野郎は本陣から出てきた俺を拉致りやがったのだ。おまけに熊野郎の隣には曹嶷(そうぎょく)もいる。


彼は申し訳なさそうな表情でちびちびと酒を飲んでいた。



(コイツも熊野郎とグルなんだよな...........普通に拉致現場にいたし 止めもしなかった)



「何者だアンタ」


「オレの名は王弥(おうび) 山東でこの曹嶷と盗賊してる者だ。まあ今は県令の下で真っ当に働いているんだが...........その県令が反晋の旗を上げるっていうんで後ろ盾に旧知の友を頼ったところ、断られたってわけよ」



(反晋ということは俺らの味方.........か いやただ食糧やら金欲しさに略奪する為だけに兵を挙げる連中がこの中原にはごまんといる きっとコイツらもその類いなんだろうな)



「............」



 俺が連れてこられたのは大陵(だいりょう)の郊外にある酒場だった。


 店内は広々としていたが今は王弥が連れてきた兵達で一杯になっている。彼らは飲めや歌えのドンチャン騒ぎ、卓の上に乗って曲芸を披露する者や早々に酔い潰れて床で寝ている者、武勇伝を語る者と様々であった。



(つわもの)共の束の間の休息――――――なんとも居心地が良かった。



「父は漢を支えることで精一杯だ そちらに回せる余力はないだろうよ」


「まったく同じことを言われたわい だが今の漢では晋を滅ぼすことは出来まい」


 王弥の言葉に酒を飲む手が止まる.............漢は晋を滅ぼせない、だと? 動揺する俺にお構いなく王弥は話を続ける。


「あくまで先の争乱で没落したのは司馬炎(しばえん)の直系だ。他の司馬一族の連中はピンピンしてやがる」



そう..........彼の言うとおりなのだ。



ここで少し八王について簡単に記しておこう。



 まず八王とは晋朝の諸侯王の事で、「八王」の通り8人の王がいる――――――



汝南王(じょなんおう)・「司馬亮(しばりょう)

 司馬懿(しばい)の第3子。司馬氏の長老格。

 司馬瑋の荒々しい性格を嫌っており、司馬氏の未来の為に排除しようとするも皇后の賈南風(かなんふう)にそそのかされた瑋によって殺される。



楚王(そおう)・「司馬瑋(しばい)

 司馬炎の第6子。頭の回転はすこぶる良く、心優しいけど、猪突猛進で荒っぽいのが玉に瑕。

 司馬亮とは性格上でソリが合わず対立、そんな状況を賈南風に利用されて亮を殺害。用済みとなった彼も始末されてしまう。



趙王(ちょうおう)・「司馬倫(しばりん)

 司馬懿の第9子。大馬鹿者という言葉が一番似合うお方。謀略に長けた父親の子とは思えないレベルに知能が残念であり統治能力も皆無。

 司馬亮と司馬瑋を殺した賈南風を司馬冏と協力して打倒すると先帝を幽閉して自ら皇帝となる.........立派な帝位簒奪である。

 この行いに激怒した司馬冏・司馬穎・司馬顒の三王挙兵を招き敗戦。毒酒を無理矢理飲まされて殺される。最期まで部下のせいで自分は悪くねぇと喚いていたという..............



斉王(せいおう)・「司馬冏(しばけい)

 司馬攸(しばゆう)の子。父親は司馬氏の本家筋にあたる司馬師(しばし)の養子。本来であれば後を継ぐ予定だったが、色々ゴタついた結果、司馬炎の代で左遷となり失意の中病死している。

 彼はそんな不幸な父の後を継いで斉王となる。賈南風を司馬倫と協力して打倒。

 調子に乗りまくっていた倫を誅殺して皇帝補佐の位を得る。帝位簒奪こそはしなかったものの、倫の二の舞を演じてしまう..........

 皇帝を蔑ろにするとは許し難しと正義に駆られた司馬乂によって捕縛されて処刑された。



長沙王(ちょうさおう)・「司馬乂(しばがい)」 

 司馬炎の第17子。アクが強すぎる八王の中で一番の常識人で正義感溢れる好漢。

 司馬倫・司馬冏の討伐に参加して功を立てた。先の馬鹿2人とは違って(まつりごと)に参入してからも驕り高ぶることはなく皇帝から絶大な信頼を得た。

 冏の討伐の際に、皇帝補佐の席を取り損ねた司馬穎と司馬顒が理不尽過ぎる理由で大軍を繰り出して彼を殺しにかかる...........ここで彼もお終いかと思われたが、有り余る軍才とカリスマ性を以て大軍を撃退。更に都が包囲された後も徹底抗戦するなど皇族というよりは将軍に近いお方だった。

 しかし天運は彼に味方せず司馬越の裏切りによって顒に引き渡された挙げ句、生きたまま焼き殺されてしまった..........



成都王(せいとおう)・「司馬穎(しばえい)

 司馬炎の第19子。世間知らずなお坊ちゃま気質で家臣のいうことをハイハイ頷いていたら、いつの間にか領民から慕われる名君になっていたお方............

 最強戦力の匈奴騎兵(きょうどきへい)や有力貴族を味方に引き入れてる為、戦となれば数十万規模の大軍を出すことが可能。

 その戦力を以て自分を討伐しにきた司馬越の軍勢を大破、先帝を生け捕りにして傀儡にすることに成功する。しかし彼は調子に乗り過ぎた..........配下の劉淵(りゅうえん)や貴族が離反してしまい戦力がガタ落ち、復活してきた越からフルボッコにされて敗走した。



河間王(かかんおう)・「司馬顒(しばぎょう)

 祖父は司馬懿の弟・司馬孚(しばふ)

 司馬炎からその立ち振る舞いを諸侯の模範であると賞賛された。司馬倫討伐の際は初めは倫の味方だったが不利になると見限って司馬冏についた。

 冏の討伐に至っては司馬穎と共に司馬乂を捨て駒にして冏を討たせようとするも思惑が外れ乂が勝つと彼は穎と大軍を繰り出して乂を滅ぼした。しかし司馬越には敵わず穎と共に没落に追い込まれる。



東海王(とうかいおう)・「司馬越(しばえつ)

 司馬泰(しばたい)の第1子。政治バランスや情勢を読み解く能力がズバ抜けている。

 司馬乂を裏切り、司馬穎・司馬顒を討伐してその勢力を削ると自分の弟達を各地に派遣して新たな秩序をつくった。



 記しておいてなんだが「司馬」という文字がゲシュタルト崩壊を起こしそうだが、これに付け加えて他の司馬氏の連中も+αでいるのだ...........



 親族間で皇帝補佐と次期帝位を巡ってバトルロワイヤルした結果、304年までに生き残ったのは司馬穎・司馬顒・司馬越のみという散々な有様だ。



――――――そして漢の敵となる相手は司馬越+弟の司馬騰(しばとう)司馬略(しばりゃく)司馬模(しばぼ)となる



頭が痛くなってきたのでここら辺で話を元に戻すとしよう――――――



「でも晋の支配力は争乱前と比べて下がってる 今のうち三軍を以て華北を平らげ、巴蜀(はしょく)李雄(りゆう)殿と盟を結び、共に江東(こうとう)を攻めれば天下は統一できるだろう」


「フン、考えが甘いぞ 貴様が思うてる程、天下統一は容易ではないわ それが出来ればとっくに漢王がやってるだろう 朝廷の実権が司馬越とその弟らに移った結果、その守りはより強固なものとなった..........華北を平定するだけでも数年か数十年は要するだろうな」


先程のふざけた態度とは一変して王弥は真剣な目差しでそう俺に語りかけてきた。


「..............数十年か」


「皇帝にでもなりゃ 人も金もモノも今より簡単に手に入るし、数だって倍近くだ。今の漢王の統率力は晋を遙かに凌ぐ..........漢王だって阿呆じゃねぇから そんくらい分かってるはずだが...........にも拘わらず帝位につかねぇ」


「あぁ..........父上はまさに皇帝に相応しい 父上以外にこの中華で皇帝に相応しい人間なんていねぇよ」


 なんで「帝」ではなく「王」を名乗ったのか、初めから「帝」を名乗ればいいじゃないか――――――この時俺と王弥は共通の疑問を感じていたのだ。

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