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第23話 一筋の不安

「お、終わったか――――――」


 敗走していく晋軍の背を見ながら俺はソッと胸をなで下ろした。


(北の脅威はこれで去ったも同然 あとは中都(ちゅうと)京陵(けいりょう)()からの吉報を待つだけだ)


 漢軍の中央軍と左右の両翼は既に撤退を開始させ、俺のみ殿(しんがり)として戦場に残っていた。


 一面雪に覆われた白銀の大地――――――平時ならさぞ美しく感じるだろうが、今は漢晋両軍の(むくろ)が転がる地獄と化している。


「………………ッ」


 

この地獄、父上が晋を滅ぼせば終わるんだよ............な? 



 父が晋を滅ぼし四方を平定して漢を再興させれば、その偉業は(しゅう)の武王・姫発(きはつ)(しん)の始皇帝・嬴政(えいせい)、漢の高祖・劉邦(りゅうほう)と名だたる英雄に並ぶ。



しかし一筋の不安が俺の脳裏を過る............



 例え晋を滅ぼしたとしても、その時まで父上は生きているかどうか..............


 仮に父上が志半ばで亡くなったら、この覇業は誰が継ぐ? 

 父上のような大器を持つ人間など全中華を見渡してもそうそういないのだ。


 さらに漢王・劉淵(りゅうえん)というカリスマがいなくなれば、匈奴族(きょうど)鮮卑族(せんぴ)氐族(てい)、漢族といった多種多様な民族で成り立っているこのモザイク国家は間違いなく瓦解する.............



――――――その時、俺はどうすればいいのか.............



 心にわだかまりを残したまま俺は戦場を後にした。

 汾水(ふんすい)を南下する漢軍と合流すると大陵(だいりょう)へと向かう。


 しかしその途中で曹嶷(そうぎょく)という漢軍の将と会い、彼から大陵が陥落寸前の報せを受けたのだ。


「な、大陵が落城寸前ってどういうことだ!?」


「私と王弥(おうび)が助太刀に参った時既に大陵は晋軍によって外城はおろか内城さえも危うい状況でした。ですが幸いにも我ら漢軍の新手が来たと判るや晋軍は引き揚げていきました」


「り、劉雅は、劉雅は無事なんだろうな!!」


「傷は負われますが、ご無事で御座います 今は手当てを受け本陣にて休まれております」



曹嶷の言葉に俺は安堵した。



...........無事か、 



無事ならよかった――――――



「それで大陵から退いた晋軍の行方は?」


「斥候を出す余力は無かったので、行方知れずで御座います」


「また態勢を整えて攻めてくる可能性もある...........か 曹嶷将軍、我々だけでも先に大陵に戻るぞ 総大将たる俺が戻れば晋軍も容易く手を出せまい 崔岳!! 我々は騎兵を率いて先を急ぐ!! 故に歩兵や負傷兵は任せた」


「承知しました」


 鈍足の歩兵に合わせていてはいつ大陵に着けるか分からない為、中央軍の指揮で心身共に疲労している崔岳には悪いと思いつつも、歩兵を任せると俺は曹嶷と共に先を急いだ。

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