第21話 汾西の戦い
「漢王からの命である!! 太原及び上党に居座る晋賊を討伐せよ!!」
漢王・劉淵から授かった詔書を全軍の前で読み上げる。
そして読み終えると詔書を天高く放り、これを開戦の合図とした。
先に動いたのは晋軍だった。太鼓がドンッと1回鳴らされると中央の歩兵は長槍を前に突き出し、2回目の太鼓の音で漢軍に向かって前進を始めた。
「両翼、突撃を開始しろ!! 俺に続けぇ!!!」
「「「うぉォォォォォォ!!!!!」」」
晋軍の騎兵が動かないと見た俺は先制攻撃で相手の両翼を突き崩そうと考え、左右の匈奴騎兵を動かした。
晋軍の騎兵は頭までガッチリと鎧を着込み、馬までも鎧で覆われている。所謂鉄騎という兵種だ。
匈奴騎兵は軽装な者が多く、ちょっとやそっとで突き崩せるような軍勢ではないのは明らかだった。
「各隊は10人を1つの隊として行動しろ!! 敵軍には深入りせずに一撃浴びせたら後退、一撃浴びせたら後退を繰り返せ!!」
一撃離脱戦法又はHit and Away―――――――――射程の許す限り遠くから敵軍を攻撃して素早く後退する戦法。敵からすれば嫌らしい事この上ない戦法だ。
俺は手にしていた偃月刀を前に振りかざす。それを傍で見ていた兵が将旗を大きく横に振る。
――――――全軍攻撃開始の合図である。
「進めェェ!!!!」
左右両翼の匈奴騎兵は錐の陣で突撃を開始。対する晋軍の両翼も鉄騎を密集させて衝撃に備える。
しかし匈奴騎兵は晋の軍中に突入しない。それどころか突入手前で散開してしまったのだ。
「な、何だ...........これは」
「どういう事だ?」
「あ、ハハハ.........匈奴の兵は精強と聞いていたが、なんだ碌な統率も執れない軍であったとは」
目の前で散り散りになる匈奴騎兵を見た晋兵は嘲笑して気を緩めた。
"匈奴騎兵は手強く、恐ろしい相手" から "この程度の相手、簡単に捻りつぶせる" という認識に早変わりしたのだ。
そしてあろう事か、散り散りになった匈奴騎兵を各個撃破しようと鉄騎の密集陣形を解き四方への攻撃を開始した。
漢軍・右翼本陣――――――
「建武将軍!! 晋右翼が崩れました!!」
「え? もう崩れたのか!? 早くないか...........まだ戦は始まったばかり 中央軍も動いていないぞ」
右翼後方で戦況を聞いていた俺は俄に信じがたい報告に眉をひそめた。
(これからだというのに もう敵右翼が崩れたる。そんな訳あるはずが無い!! 深読みは禁物だが............)
当初は俺が先陣切って攻めるはずだったが、部下達に止めらられたのだ。御自ら危険に晒すなど愚かの極みだと..........まったくお陰で御覧の通り、前線が全く見えねぇ後方に追いやられたって訳だ。
「報告ゥ!! 敵中央軍が動き出しました!! 左翼も戦闘に入ったとの報せです」
「報告です!! 敵の右翼がバラバラになった漢軍右翼の前衛を各個攻撃中!!」
「将軍!! 指示を」
次々と駆け込んでくる斥候の情報はどれもこれも少し前のものばかり。刻々と移り変わる戦場において情報伝達の遅れは命取りとなる。
(ここはやっぱり俺が動くべきか.............敵の右翼がバラバラになった今、側面を急襲すれば戦果を挙げられるかもしれない まごまごしていては機を逃す)
「俺が自ら前線で指揮を執る 主力は俺に付いてこい 共に敵の右翼側面を突き崩すぞ」
「御意!!」
直ぐさま100騎を引き連れて敵に気付かれないように将旗は掲げず、大きく迂回して晋右翼の側面に進出した。
騎兵は俺の指示した通り、10人単位で晋軍への騎射を繰り返していた。
絶えることない波状攻撃に耐えかねた晋の騎兵らは匈奴騎兵を追おうとするも、やはりここで遊牧民族・匈奴と農耕民族・漢族の差が大きく出た。
馬の扱いに不慣れな漢族は追うのも、弓を射るのも一苦労といった様子。対して匈奴は幼い頃から騎射や馬の扱いを習う為、正に人馬一体 自分の体の一部のように縦横無尽に駆けまわれる。
野戦において鮮卑拓跋部の騎兵がいない并州の晋軍に漢軍を防げるだけの力はない。
「連中の横腹を食い破るぞ!! 突撃開始ィィィィィ!!!!」
手綱を握り偃月刀を振りかざすと一直線に敵中に突っ込む。
「か、漢軍の攻撃だ!!」
「真横から漢軍が来るぞォォォォ!!!!」
浮塵子の如く飛び回る目の前の匈奴騎兵に気を取られていたら、突然側面から新手の漢軍に突かれたのだ。
「ハァァァァァァ!!!!!」
ドカッ!!
「ぐぁ!!」
バサッ!!
「...........うぐっ!!」
偃月刀を振るい次から次へ晋兵を両断していく。
返り血を体中に浴びるもそんなのお構いなしに敵中を縦横無尽に泳いでいく。後続の配下達も槍や戟を以て晋兵を串刺しにしていく。
そして虚を突かれた晋右翼は抵抗出来ずに総崩れを起こし、見るも無惨な痴態を晒して北への遁走を開始。
正しく鎧袖一触だ――――――
「弱ッ!! 姿見ただけで逃げやがった..........」
「士気の違いでしょうな 一応これで右翼の戦いは片付きました。左翼の方も漢軍優勢と聞いております故、早々に片付くでしょう」
「分かった ならば右翼を結集させろ 敵中央軍を背後より奇襲をかけるぞ」
「御意!!」
この時既に漢と晋の中央軍は接敵しており激戦となっていた。




