第17話 晋軍、南下
”漢軍が大陵に兵や武器食糧を集結させている” という報せを受けた司馬騰は、直ぐさま使者を壷関に走らせて救援を要請した。
間もなくして援兵1万が晋陽に到着すると嫡男・司馬虞にこれを率いさせた。
蛙の子は蛙とはよく言ったものだが、この司馬虞は暗愚な父に似ず、才気煥発な若武者で家臣達からの人気も高い人物であった。
皇太弟・司馬穎との戦いでは進んで陣頭指揮を執って敵将を討ち破り、城を陥落させるなどの功績を挙げていた。
彼は晋軍の旗を高らかに掲げると晋陽から汾水に沿って南下した。
――――――カッ カッ カッ!!
「そういえば父上が出した偽の流民の報告によれば漢軍の将軍が変わったらしい 前回は劉宏だったが此度は違うらしい............叡殿は何か聞いているか?」
「いえ 何も聞いておりません。しかしながら将軍が変わってから方針も変わったらしく 我が聞くところによれば大陵周辺に数多の砦を築き、離石への街道を封じた上で東進しているとか」
司馬虞と轡を並べてるのは、かつて趙王討伐を行おうとして失敗した簫叡である。
「ふん 4ヶ月前に拓跋の騎兵に蹂躙されたことを忘れたみたいだな まあいい また蹂躙すればいいことよ」
「若君 その時は我に先鋒をお申し付けください。この偃月刀が血が欲しい 血が欲しいと夜泣きしておりましてな~」
「あぁ いいだろう。此度の戦で戦功を挙げれば、貴殿を左賢王・五部大都督にするよう朝廷に上奏してやる 貴殿が劉淵に代わって匈奴を治めよ」
「有難き幸せ」
簫叡は兵3千を司馬虞から借りると昼夜を問わず駆け続け、1日で晋陽から9里離れた地域に進出すると漢軍の砦を夜襲で攻め落とした。
大陵・漢軍本陣――――――
大陵近郊に晋軍迫るの報せを受けた劉雅は始めは驚いていたものの、直ぐに落ち着きを取り戻すと城内の兵3千を東西南北それぞれの城壁に配置して戦闘準備にあたらせた。
「兵と民達の様子はどうだ?」
「戦を恐れております。民達の中に晋軍には勝てないから城を開いて降伏をしようと話す者もおります」
「そうか..........ならぱ民達を北の城壁に集めよ。私が皆を説得してみせよう」
「御意」
劉雅は城内の兵や民達を北の城壁付近に集結させると自身は城門の上に建てられている中央の大楼閣に立った。左右には「劉」「漢」の文字が描かれた牙旗が掲げられ、あたかも彼自身が漢軍の総大将のような風格を漂わせていた。
(本来であればこれは総大将たる劉曜殿がやるべきこと...........されど劉曜不在の今、私が劉曜に代わって皆を鼓舞しなければならない 印綬を預けられた以上、使命を全うせねばな)
「よいか!! 皆の者、どんなに立派な大木だろうと根が腐れば葉や枝が落ち、いずれかは朽ち木となる 朽ち木となれば蟲に食い荒らされ、強風が吹けば忽ち倒れてしまうだろう。今やこの国は朽ち木同然である!! 皇帝は無能!! 皇帝を支えるはずの丞相は権力と富にしか頭にない!! 我ら民は司馬一族にとって”葉”でしかない 蟲に喰われようが風に吹かれて地に落ちようが奴らにとっては関係ないのだ!! この大陵が陥落すれば晋軍は必ずや民を皆殺しにするだろう 降伏したとて見せしめで同じ末路を辿るのは必定!!」
劉雅はツバを飛ばして必死に民に訴えかける。
「民よ!! 生き残る為に剣を手にせよ!! 戦うしか道はない!!」
民からの反応はない..........しかし3人の長老が群衆の前に出てくるや劉雅を見据えてこう言った。
――――――貴殿らをこの大陵に招き入れた以上、漢と共に栄辱を共にする覚悟にございまする。
そして民達も長老の話が終わると拳を振り上げてこう叫んだ。
我らは晋の民にあらず 漢の民である――――――と




