第16話 軍議
大陵――――――
大陵に陣を敷いてから気付けば早5日が経っていた。既に離石から武器兵糧は届き、兵の調練も完了して戦の準備は万端であった。
だが俺は兵を汾水から東へ動かそうとはしなかった..........いや動けなかった。理由はやはり晋陽にいる司馬騰の動きであった。
前回とは違い司馬騰は直属の将軍を派遣してないのだ。
汾水から東の中都・京陵・祁・陽邑の県城から兵を出してくるのか、それともこれらの県城を囮に漢軍を引きつけ、その間に晋陽の軍勢を南下させ、手薄になっている大陵を突くつもりなのか............
「将軍らに問いたい 我らはこれより中都・京陵・祁とその周辺の県城を平定しなければならない。然れど唯一気掛かりな事と云えば晋陽に居座る司馬騰の存在である。奴がどう動くかによって状況が変わってくる思うのだが、俺はどうするべきか..............汾水方面に備えを置くべきか、それとも大陵に守備を置いて東へ進むか」
俺の問いかけに将軍らは口をつぐむ。何せ誰も司馬騰の腹の内など知らないからだ...........
「建武将軍に申し上げます。晋陽から流れてくる民の情報によれば、司馬騰は前回の大陵戦で総指揮を執っていた聶玄を斬首にしたそうにござりまする」
「敗戦の責任を押しつけたのか」
「左様 負ければ斬られる..........城内の武官共は誰も漢軍と戦いたがらないと聞き及んでおります。それ故、背後を気にする必要はありますまい 総勢2万5千を以て東進すべきかと思いまする」
黒髪灼眼の将軍がそう進言してくる。
(あくまでも民の噂に過ぎない..........全てを鵜呑みには出来ないな)
そんな俺の胸中を代弁するかのように王忠が口を開く。
「劉雅殿 それは危険であるぞ」
「はて? ならば王忠将軍の意見を伺いたいのだが」
黒髪灼眼の将軍・劉雅――――――漢王・劉淵から安西将軍の位を賜った若き将軍で齢は25
そして俺とは血縁関係にある人物でもある。
「将軍は知らぬかもしれませんが晋陽から此方に流れてくる民の大半は斥候か要らぬ噂を撒く輩にございます。それに晋陽には腐るほどの食糧がございます故、流民となる理由がございませぬ 東嬴公はずる賢い方だ。流民を通じて我らの内情を探らせ、北方への備えを置かぬと分かれば、此処ぞとばかりに兵を出してくるおつもりでしょうな」
「...............さ、然れど我が軍に兵を割く余力はありませぬ ハァ..........建武将軍はいかが思われるか」
劉雅が此方を見据えてそう呟く。
「俺は.........王忠の意見に賛同する。司馬騰は曲者だ。我らが大陵を出払ったと知れば大軍を繰り出してこよう そうなれば大陵のみならず離石までも危うくなるだろう............将軍らに命を下す!!」
「「「ハッ!!!」」」
(いつまで迷っていては機を逃すどころか味方にも動揺が走る.............)
「安西将軍・劉雅を俺の名代として兵3千を与えて大陵に据え置く。城内の守備兵と共に大陵の本営を死守せよ!! それから王忠と劉綏、曹恂はそれぞれ兵4千を率いて東の中都、京陵、祁を包囲せよ」
「御意!!」
「心得ました」
「ハッ!!」
命を受けた王忠、曹恂、劉綏はそれぞれ陣幕から出て行き残ったのは劉雅のみとなった。
「劉雅殿にはこれを渡しておこう」
机の上に置いてある黒塗りの箱から印綬を取り出す。
「建武将軍 これは一体.............」
「俺は1万の兵力で汾水方面に出る ここは任せたぞ劉雅殿!!」
「なっ!! き、貴殿は総大将ですぞ!! 総大将自ら敵本拠に乗り込むおつもりか!?」
「フッ そう案ずるな死ぬつもりはないさ 父上が天下を取るその日まで俺は盾となり刃となって働くと決めたんだからな 此度は汾水を眺めながら散歩するだけのこと」
「............わ、分かりました 印綬をお受け致します」
笑ってみせると手にしていた印綬を劉雅に押しつける。すると彼は ”覚悟を決めておられるなら申すことありませぬ” と印綬を受け取った。




