第12話 狩猟
304年12月・西河国・離石――――――
鬱蒼とした山林に鬨の声や金属が擦れる音そして獣達の断末魔が木霊する。
この日は離石城の東側に広がる呂梁山脈にて盛大な狩猟が行われていた。
カッ カッ カッ カッ!!
周囲の兵が戟や槍を持ち徒歩での狩りを行う中、俺は青鹿毛の馬に跨がり長弓を手に野山を駆けていた。
「おぉ あの方が噂の............」
「漢王様のお気に入りという将軍か」
「なんともお綺麗な方よ」
通りすがる兵士達は口々に俺を見上げてそう呟いた。しかしその言葉は決して褒めの言葉ではない。30にもならん若大将に何が出来るんだと嘲笑の意味も含まれていた..............
建武将軍――――――これが父・劉淵から任じられた役職だ。
馬鹿な俺には何をする役職かは分からないが将軍位である事は間違いないし、これが出世コースの第1歩になるんだから無下には出来ない。
兵3万を動員したこの大規模な狩猟は軍事訓練も兼ねており、劉淵の嫡男・劉和、次男・劉恭、三男・劉聡に、劉淵の兄・劉延年、太尉・劉宏を始めとする劉氏、外戚の靳準を筆頭とする靳氏、呼延翼を筆頭とする呼延氏と錚々たるメンバーが参加していた。
――――――そしてこれは俺にとって大きなチャンスなのだ。
俺は劉氏でありながら長らく朝鮮に居たことから一族との面識は無いに等しいのだ。
父・劉淵や兄・劉聡を除いて俺のことを知らない他の劉一族からしてみれば、俺は新参者にして出自の怪しい者に他ならない。
(ここで”劉氏に永明あり”と重臣と兵達にアピールしておかねぇとな.............)
思い立ったら即行動するのが俺という人間だ。颯爽と雪山を駆け下りながら筒から矢を引き抜くと真横を併走している鹿に狙いを定める。
キリキリッ..........
矢をつがえて限界まで弦を引き絞る。
――――――バシッ!!
放たれた矢は真っ直ぐ鹿の喉元を撃ち抜く。鹿は微かな鳴き声と共に斜面を2、3回跳ねてから倒れるとそのまま動かなくなった。
更に続けざまに上体を捻り二の矢、三の矢、四の矢を撃ち込んでいく。
俺が真面な騎射をしたのはこの時のみで、後は山々を駆け回りつつ、遠方から獣の瞳を射抜いたり、地面に突き立てた戟の小枝に射撃したり、枝に実った果実を射って落としたりと曲芸まがいのことをしていた。
そんな俺を兵士達は笑ったり驚いたりと反応は様々だったが注目を集めることには成功していた。
そして日が傾きはじめた頃、俺は山麓の陣営に戻った――――――
「貴様が曜か............」
「兄上 永明と我らは兄弟なんですから敵に向けるような視線は止めてくだされ ほれ永明も肩の力を抜いて 酒だ!! 酒を持ってこい」
義兄・劉和は警戒心が強いらしく俺が陣営に入るなり思いっきり睨んできたのだ。今にも抜剣しそうな勢いだったことから、周りにいた腹心の呼延攸や劉聡・劉恭が慌てて止めに入り事無きを得た。
(この兄めっちゃ睨んでくるよォ..............怖ァ)
幸い楽観的な劉聡が間に入ってくれるから良かったけど、彼が居なかったら..........いや想像するのは止めておこう。
目の前に劉和その隣に呼延攸、そして俺の右側に劉聡が、左側に劉恭が座りそれぞれ酒を飲んだり料理を食べたりしている。
俺の前にも料理が出されていて、膾(細切りにした生肉に薬味を和えたもの)、羹というメニューだったが気を抜いて飲み食い出来るような状況ではない。
「父王から話は聞いている。建武将軍として大陵の後始末を任せられたのであろう..........」
「えっ..........大陵の後始末? 太尉が三県を晋に譲るっていう条件で講和を結んだんじゃないのか? なら大陵方面の戦は完全に終わったはずじゃ?」
「ボクらもそのつもりでいたんだけど..........中都、京陵、祁の長老とその民達が再び晋の支配下に入るのはイヤだって言い出したんだ。晋陽から派遣されてきた県令は三県に入れず追い返されたらしい」
「...........それに晋がカンカンに怒って再び兵を出そうとしてるってことか」
俺の言葉に劉和、劉聡、劉恭が頷く。
――――――この狩猟の2日後、三県の長老から嘆願書を受け取った漢王・劉淵は遂に本格的な対晋戦争に踏み切る決意を固めるのだった。
そしてこの日から12年に及ぶ大戦の火蓋が切られるのだった.........後の世にいう「永嘉の乱」の始まりである。




