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第11話 敗将の処遇

 大陵(だいりょう)の報せは直ぐさま壷関(こかん)にいる司馬瑜(しばゆ)の元に届けられた。


 敗軍の将となってしまった石鮮(せきせん)周良(しゅうりょう)は頭を垂れて己の処罰を求めたが司馬瑜はこれを許さず ”功を以て罪を償え” と事実上の不問とした。


「司馬瑜殿 中都(ちゅうと)京陵(けいりょう)()胡族(こぞく)から我が手中に戻りました。賢臣を県令に任じてはいかがでしょうか」


「周良殿の言われる通りであるが ご主君から県令は臣下の者から選ぶゆえ口出しは無用との返答があった」


并州刺史(へいしゅうしし)の臣下は軒並み無能揃いにございます。(まつりごと)と云えば刑を増やすのみで、財に困れば胡族や貧民を奴隷として売り飛ばす。この有様では再び3県は胡族のものとなりましょう」


「だからといって主君の命に背く訳にはいかぬ。我らは事の成り行きを見守ることしか出来ぬのだよ それに余計な口出しをして睨まれたくはないのでな........」


 皇族同士の争い(八王の乱)を間近で見てきた司馬瑜にとって一族の揉め事は何としても避けたかったし、これ以上身内で権力闘争をし続ければ王朝そのものが滅びてしまうのだ。


「いいか周良殿 真の敵は胡族ではなく司馬一族と心得よ。奴らは足下を掬わんと虎視眈々と狙っているのだ。其方もいらぬ讒言(ざんげん)で死にたくはないだろう?」


「.........そ、それはそうですが しかし民を想うと心が痛みまする」


周良の言葉に司馬瑜は黙りこくる。



そして一言こう呟いた...........



「我らがどれだけ民の為に心を砕こうとも民の心は既に胡族に傾いている..........心苦しいかもしれぬが民は諦めよ。こうなってしまった今、我らは保身に走るよりほか無いのだ 身内に敵がいるようでは自由に動けぬ」


「保身に走るというならば胡族に投降なさいませ」


「..........本心としては投降はしたい なれど我は晋帝に忠誠を誓った身だ。簡単に叛くわけにはいかぬ 最期まで晋の為に働くつもりだ」



(――――――我は他の司馬一族とは違う 権力に取り憑かれた成都王(せいとおう)河間王(かかんおう)のようになったら何もかもお終いよ .........願わくば長沙厲王(ちょうされいおう)のような忠義の士になりたいものだが)



司馬瑜は虚空を仰ぎ見て嘆息した。


 自分はあくまで脇役であり主役にはなれない――――――司馬一族でありながら謀略は不得手で取り柄と云えば愚直な忠義のみ。ならば死を迎えるその日まで忠義を貫いてみせよう.............と



太原国(たいげんこく)晋陽(しんよう)――――――


 「ほぉ 3県に屯してる胡軍のみならず、離石(りせき)左国城(さこくじょう)をも攻め落として御覧に入れますと啖呵を切っておきながら........このザマは何だ?」



 丸々と豚のように肥えたオッサンが玉座の上から聶玄(じょうげん)にそう問いかける。



 東嬴公(とうえいこう)司馬騰(しばとう)――――――それがこの豚の名前である。


 若き頃は南陽国(なんようこく)魏郡(ぎぐん)の太守となり、その働きぶりを評価された。

 その後、中央に召還されて都督并州(ととくへいしゅう)諸軍事(しょぐんじ)并州刺史(へいしゅうしし)に任じられて今に至る。



「胡軍の強さは我々の想像を超えております。我が軍も応戦はしましたが...........奮戦及ばず 申し訳ございません」


「壷関の司馬瑜は守りを固めて敵が隙を見せるのを待つべしと申していた。対して貴殿は攻勢に出て敵の出鼻を挫くべしと申したな? 攻勢に出た結果.......我が軍はどうなったか?」


「............古来より”敗軍の将、兵を語らず”と申しまする。これ以上申し上げることはございません どうか軍法に則りお裁きを!!」


 これ以上話したとしても司馬騰の怒りを買うだけと判断した聶玄は弁明を辞めた。


「ならば言葉の通り軍法に則って処罰致そう!! 誰か!! この者とその一族を引きずり出して斬首にせよ!!」


「はっ!!」


 司馬騰の命を受けた禁兵3人が直ぐさま聶玄の手足を掴んで取り押さえる。

 聶玄は暴れることもなく宮殿の外に引きずり出されていった...........


「我が君 聶玄殿は確かに敗戦の将ではありますが、果たして斬首刑にする程でしょうか?」


「賞罰をハッキリさせねば規律は保てぬ 仕方あるまい」


 場が響めく中、乞活(きつかつ)田甄(でんしん)は司馬騰の前に進み出て意見を述べる。

 乞活とは武装した流民集団のことで田甄はその流民集団を率いている将軍である。


「聶玄殿は長沙厲王の遺臣と聞き及んでおります。長沙厲王と云えばあの暗愚な先帝を支え、成都・河間の両王が繰り出してきた精鋭軍を討ち破った賢王にございます。その遺臣を一度の敗戦で斬ったとあらば、我が君の徳に傷がつきまする」


「長沙厲王は我が兄上の敵であった者だ。兄上が情けをかけて下さったのだ。その情けに甘えていたから此度のような失態を犯したのだ。当然であろう...........それに胡族やら流民を奴隷として売り飛ばした時から我に徳などない」


 多分、ろくな死に方はしないだろう........司馬騰はそう感じていた。

 そして間もなく刑死した聶玄の首が届けられたのだった。聶玄が死んだことによって征北将軍(せいほくしょうぐん)の官位は再びに司馬瑜に戻されることになった。

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