第111話 劉聡に仕える
光極殿・西堂――――――
到着して早々に地下の石牢にぶち込まれるかと思ったが通されたのは西堂で、縄は解かれたが部屋から出ることは許されず、半ば監禁状態となっていた。
(仮にも端くれとは云え、宗室の1人だから粗末な扱いは避けた.............ということか)
俺は今、宦官が持ってきた茶を飲みながら待機させられていた。
――――――西堂は日光が入ってこないのか薄暗く、床のあちこちには黒いシミが付着している。
「薄気味悪ィ 場所だな...............幽霊でも出そうだな」
「.............流石はボクの弟だ 察しがいいな」
「――――――ッ!!」
背後から声がして咄嗟に振り返ると、そこには皇帝の装束に身を包んだ劉聡が立っていた。
「ここで兄の玄泰を殺したんだ 勿論その家来もね その血はいくら拭っても取れないんだよねぇ~ 困ったもんだよ」
「なるほど、ここが俺の死に場所ってことか」
「何を言ってるんだい? 君は殺さないよ」
「殺す為に俺を呼びつけたんじゃないのか?」
劉聡は俺の前に座ると冠と宝剣を外すと、邪魔だと云わんばかりに床に放った。
「まあ返答次第では............って感じかな
君はボクの即位式に出ず、出陣命令を出しても弟の劉暉や劉雅に任せてばかり 父上が存命であれぱこんな事はしなかったはず ボクに何か不満でもあるのか?」
「不満なんかねぇよ ただ体調が優れなくてな.............この状態じゃ兵を指揮することすら難しい」
「.............宮中の官吏共は君がボクに対して不満があって謀反を企んでいるというのだ。火のない所に煙は立たないはずだが」
「人を貶める為にわざと火を放つ者もいるだろ 此度の騒動はそういう連中の仕業じゃないのか? 俺は ”漢” に忠義を尽くす将だ 謀反など邪な事は考えたことねぇよ」
「...................」
そう2人で話している美しい女官6人が西堂に入ってきた。彼女らは膳を劉聡や俺の前に置くと拱手してそそくさと出ていった。
3つの膳にはそれぞれ焼き物や羹、膾があり山海の珍味が豪華に彩られていた。
「さぁ、遠慮はいらないよ 存分に飲み食いするといい」
劉聡は優しく微笑みながら勧めてくる.............
(これ食ってから殺されるのか、それともこれに毒でも混ざってんのか)
警戒しながら小鉢に入った膾を箸で掴んで口に運ぶも何ともなかった。更に酒やその他の料理にも手を付けたが異変はなかった。
そんな俺の様子を見つめていた劉聡は口を開いた。
「なぁ永明、ボクの顔を立ててくれないか 君は漢軍の武の象徴であり、宗室の中で最も人望の厚い人間なんだ。そんな人間がどっち付かずな動きをしていれば、謀反と疑われても仕方がないだろう?」
「................俺は漢の将軍だ そういう事には介入しないと決めてるんだ」
「ハァ 頑なにそういうならボクも君を斬らなきゃいけないんだが...........君が望もうが望むまいが、ボクに反対する連中は君を担ぎ挙げる そうなれば再び騒乱となり君にとってもボクにとっても悪い結果にしかならないんだ」
「................」
(放蕩癖の酷い兄上が真面目に政務をやるとは限らないし、配下も王沈や郭猗を筆頭にアレな連中が多い 靳準も今は罷免されているが、政務が本格的に始まれば呼び戻す可能性だってある.................ここは顔だけ立てて、さっさと離れるのが良いかもな)
自分の中で結論が出た俺は爵を膳に置くと、劉聡の方に体を向けた。
「兄上の気持ちはよく分かった。俺としても幼少の頃からずっと一緒にいた兄上と対立なんて望んでないし、云われなき罪を背負ってここで死ぬつもりもない 喜んで協力させてもらうよ」
「ふふふ、良い返答だ。これで君を斬らずに済む 兄2人に付け加えて、弟まで殺したくはないからさ」
安堵して笑みを浮かべる劉聡ではあったが、頬には一筋の涙が伝っていた。
(事情があったとは云え、兄2人を殺したことを悔いているのか................)
後日、俺は正装して太極殿いや光極殿に向かっていた。
そして廷臣が集まる中、俺は皇帝・劉聡の前に跪いた。
「臣・劉曜は先帝の大業を受け継ぎし陛下にお仕え致します!!」
俺の言葉に劉聡は力強く頷いた。そして前を向くと廷臣にこう言い放つ。
「始安王は朕の賢弟である!! 幼少からの間柄ゆえ、その心は知り尽くしている。いらぬ讒言で朕らの仲を引き裂こうとする者は族滅と致す!! よいな!!」
「「「御意!!」」」
これ以降、俺を貶めるようとする輩は居なくなった。




