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第110話 逮捕

平陽(へいよう)劉曜(りゅうよう)邸――――――


 楚王(そおう)劉聡(りゅうそう)が皇帝に即位して以来、俺は病だと理由を付けて出仕を断り邸に篭もっていた。


 実際、体調の浮き沈みが激しくとても兵を率いて戦える状況ではなかった.............


 しかし宮中では ”始安王(しあんおう)が出仕しないのは即位したばかりの陛下に不満があり、謀反を企んでいるから” というあらぬ噂が流れていると弟の劉暉(りゅうき)から訊いたが、くだらない事だと思って最初は無視していた...............



ある日の夜に俺は家臣を邸に集めた――――――



「先ずは一言、俺は今まで戦でも何でも自分勝手に突っ走ってきた。どんな死中だろうと得物を振るって活路を見出し、力尽くでこじ開けてきた.............俺の無謀に付き合ってくれたお前らには心から礼を言う」



「...............」


「.................ッ」



劉暉(りゅうき)劉雅(りゅうが)は口を一字に結び、険しい表情をしていた。


「こういうのは今の内に言っておかないとな..............首と胴が離れた後じゃ、言えねぇからな まあ戯れ言はこのくらいにして、劉暉、最近の宮中じゃ俺の謀反話が流行っていると訊くが本当なのか?」


「あぁ本当だ。出所は王沈(おうしん)郭猗(かくい)を筆頭とする宦官勢力、奴らは劉和(りゅうか)劉恭(りゅうきょう)を殺す際に楚王の右腕となって働いてた者だ」


「謀反って............将軍は今に至るまで宗室への忠義を欠いた事はない 一体いかなる罪があって謀反と断定したのだ!!」


劉暉の話を聞いていた劉雅が激怒する。


「皇帝の即位式に欠席した事と討伐を命じられても自ら動かず代理の者で済ませた事が ”逆心あり” と映ったのだろう」


「腑に落ちぬな あの時、将軍は病を得て床に臥していた その事は誰もが知っていたはず 将軍!! これは断固として抗するべきです 私に命じて頂ければ兵を率いて宮中に乗り込み、王沈を斬り捨ててご覧に入れます」


 確かに劉雅の言う通り根も葉もない謀反話は抗議すべきだろう..............しかしこれは俺を嵌める為に仕組まれたこと、だとすれば奴らは最初から聞く耳をもたない 宮中に入った途端、捕らえられて牢獄からの即処刑コースであろう。


「落ち着け劉雅 それでは謀反の話は本当であったとして一族皆殺しになるぞ。仮に宮中に赴いて弁明したとしても捕らえられて獄に叩き込まれるのがオチだ」


「ならばどうせよと?」


「2人は俺の妻子を連れて大陵(だいりょう)に行け 俺は1人邸に残るわ」


「そ、それでは将軍の身が危うくなるではないか............」


「兄上も我らと一緒に大陵へ行こう」


劉暉が俺の肩を掴んで揺らしてくる。


 大陵は俺の藩鎮...............つまり本拠地である。


 晋軍との戦いで荒れ果てた大陵を俺が引き取り劉雅に守備を任せていたのだ。父から貰った褒賞は全て大陵の復興と改築に注いでいたことから、大陵は難攻不落の城と化していた。


「俺まで大陵に行けばそれこそ事が大きくなる。下手をすれば漢は北と南で分裂するぞ............そうならない為にも俺は捕まる覚悟だ」


「し、しかしそれでは処刑されますぞ」


「.............一か八かだな 2人が大陵にいると判れば連中も余計な手出しはしてこないと予想してるんだが」


 こればっかりはどうなるか分からない...........遂に劉暉も劉雅も黙ってしまった。


 しかしのんびりしてる暇はなく、いつ廷尉(ていい)から出頭命令が下るか分からない。


 一子に加え身重である妻の(すい)を無理させるのは良心が痛むが、連座で彼女が惨たらしく殺されるのはもっとイヤだった...........2人の弟と家臣に妻を託して早々に邸の裏から脱出させた。



そして俺は誰も居なくなった邸の広間に居座った――――――



間もなく夜が明けると禁中の兵が邸を囲む。



 兵は邸の門を開け放つと中にドカドカと入ってくるが、流石は禁中の衛兵で彼らは略奪や寄り道をすることなく広間までやってきた。



「貴殿が始安王(しあんおう)だな? 其方を謀反の疑いで逮捕致す!!」



 俺は後ろ手に縛られるとそのまま太極殿に連行されていった...........明日、首と胴がおさらばしない事を神に祈りながら邸を後にした――――――

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